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*第七話・大船フォンデュー号6*






−船の甲板−

「はぁ、気持ちが良い」
 大きく息を吸って、吐いて、ルークは深呼吸を繰り返した。
 それから、雲から覗く太陽が照らす船上を、ぐるりと見回した。

 甲板では、船の縁(ふち)で多くの猫達が釣りをしている。
 船が大きく破損した部分には、力のありそうな雄猫たちが、板や金槌などを持って修理に励んでいた。
 マストの柱を補修する猫達もいる。
 割れたガラスや木片は片づけられ、甲板の上は、バハムートと戦っていた時よりも幾分良くなっていた。
 どの猫達も少し疲れた顔をしていたが、乗客船員老若男女問わず、互いに楽しそうに言葉を交わし合っている。

「俺も、手伝わなきゃ」
 ルークは頷くと、船員の一匹に声を掛け、釣り竿をかりて釣りを始めた。



 空いていた場所を見つけると、ルークは先ほど釣り竿と共にもらった、パンくずとミンチが混ざったような餌を釣り針につけ、釣り糸を垂らした。
 しばらくすると、隣に小さな男の子がやってきて、
「僕も釣りがしたいんだけど、やり方がわからないんだ」
 と話しかけてきた。
「よく釣れる方法は分からないけど、魚を釣る方法なら知ってるよ」
 ルークがにっこり笑って答えると、小さな男の子は「教えて教えて」とせがんできた。

 餌の付け方、釣り針の垂らし方、等々。
 ルークは知る範囲の事を簡単に、小さな男の子に教えてあげた。
「ねぇ、お兄ちゃん」
 一通り教えた後、急に男の子が問うてくる。
「ん?」
「ひょこひょこ動いてるのは、どうして?」
 そう言って、男の子は釣り竿を指さした。
「あっ、あっ魚が引いてるんだよ!」
 ルークは慌てて、ああしてこうしてと手ほどきした。
 手伝おうかと近づくと、
「ダメっ、僕ひとりで釣り上げるんだっ」
 男の子はそう言う。
 今にも逆に引きずり込まれそうな小さな男の子を見ていて、ルークは冷や冷やした。
 一つ向こうに座っていた老いた雄猫が「坊や頑張れよ」と暢気に応援している。

 ルークは「引き上げるタイミングをよく見て、一気に釣り上げるんだ」と声を掛けた。
 大きく頷いた男の子は、次の瞬間、グイッと竿を持ち上げる。
 海面から、身をうねらせながら魚が躍り出た。
 魚は宙を舞い、甲板の上に音を立てて落ちる。
 それと同時に、小さな男の子は仰向けにひっくり返った。
「だ、大丈夫っ!?」
 ルークが駆け寄ると、
「俺、魚釣っちゃった」
 嬉しそうに男の子は笑った。
 ルークは、ぱちぺちと甲板で跳ねる釣り上げられた魚を見た。
 大きな、まるまると太った青魚だ。
「兄ちゃんより先に釣っちゃった」
 喜々とした顔の小さな男の子に、ルークは「負けちゃった」と微笑した。


 小さな男の子は、それから次々と魚を釣り上げた。
 そのため、ルークは自分が釣るどころではなかった。
 束の間、ルークは自分が旅猫(クォーツ)だった事、フォンデュー号に乗っている事も忘れ、釣りと親しくなった小さな友達との時間を楽しんでいた。

 夕方近くになって、猫達が釣り上げた魚を一カ所に寄せ集め始めた。
 コック帽をかぶった数匹の料理猫のうちの一匹が、
「今日は昨日よりたくさん釣れましたね。
明日にはエクレアに着きますし、今日は少し奮発して、豪勢な料理にしましょうか」
 と腕まくりしながら言った。
 あちこちから、「魚のムニエル!」だとか「肉厚の魚ステーキ!」だとか「酒肴(しゅこう)も忘れんでくれ」とリクエストが飛び交う。
「できるだけご要望にはお応えしますよ」
 と口の辺りの白毛が印象的な料理猫が、にっこりとして言った。

 立ち去り際、小さな男の子が声を掛けてきた。
「兄ちゃん、釣り教えてくれてありがとう」
「楽しかったよ」
 ルークはそう言って、またね、と手を振った。

 小さな男の子と別れてすぐ、
「ルーク」
 と誰かに呼びかけられた。
「……あ、リスベル」
「お魚、たくさん釣れました?」
「2匹だけしか釣れなかったよ」
 鼻の頭を掻きながらルークがそう答えると、
「夕食の時、ルークの釣ったお魚、教えてくださいね」
 とリスベルは言った。

 2匹は船の縁沿いを、のんびりと歩き始めた。
「日、だいぶ傾いちゃってる。
何だか今日は、のんびりした一日だったなぁ」
「……ルーク、見て下さい。
ロブスターさん、あんなところで寝てますよ」
 船のマストの柱に寄りかかり、黒猫が静かに眠っていた。
 リスベルはそれを見て、くすくす笑った。
 

 そのうち2匹は、海と空と太陽を眺めた。
 今日で最後になる船上の夕景を、じっと、2匹の子猫は見つめる。
「日が沈みますね、綺麗な夕焼けですよ」
 リスベルがそう言った、ちょうどその時、後ろで欠伸をするのが聞こえた。
 振り返ると、首の後ろを撫でつけているロブスターと目が合った。
「ロブスター、おはよう」
「あぁ」
 黒猫はのっそりと立ち上がった。
 濃紫のマントを翻し、船内の方へと歩き始める。
「あ、ロブスター! 海に沈む夕日、とっても綺麗だよっ」
 ルークが立ち去ろうとする黒猫にそう言うと、
「……夕日は好かん」
 黒猫はぼそりとそう零し、行ってしまった。

「……?」
 ルークは小首を傾げて、去っていく黒猫の後ろ姿を見つめていた。
 そんなルークに、
「見て下さい、あそこに一番星が!
夕焼けって、素敵ですね。
何だかどれも、夕日の色に暖かい色に染まって見えます」
 とリスベルはうっとりした様子で話しかけてきた。


 夕日は当たり一面をその色に染めた。
 そうしながら、徐々に、海の向こうへと落ちていく。
 次第に辺りを夜の帳(とばり)が覆いだし、太陽替わって、月と星が空を占め始める。
 海の夜景は、輝きが海面にに映るせいか、星がとてもたくさん輝いて見えた。

 そんな夜景を、船の屋上で、1匹の見知らぬ猫もまた、見つめていた。



 船上の猫達が眠りについた静かな海。
 大船フォンデュー号は、夜の風を受け、静かに星輝く海面を進んでゆく。





〜翌日〜


『おはようございます。
今朝は船内の大広間にて、朝食をご用意しております。
今日(こんにち)のお昼前に、本船はエクレア港に到着する予定です』


 船内アナウンスで目を覚ましたルークは、大きく伸びを一つした。
 4匹で使っていた部屋のベッドが壊れているとの事で、一緒にこの部屋に移っていたリスベルは、もう目を覚ましている。
「おはようございます、ルーク。
一緒に朝食食べに行きましょう」
 簡単に身だしなみを整えると、2匹は大広間へと出かけた。





 大広間の入り口までやって来た時、戸口にチーズ船長が立っていた。
「チーズ船長、おはようございます」
 2匹が挨拶すると、「おはようございます」と船長は微笑んで返した。
 大広間の扉は、閉まっている。
 その扉のノブに手を掛けると、
「どうぞ」
 と、普段より笑顔に見えるチーズ船長はそう言って、扉を開けた。





−大広間−

 ガチャッ キュウウ

 扉が開いたのと同時、大きな拍手と歓声がルークとリスベルを迎えた。
 一体何が起きているのか、わからずに、2匹は目を丸くし、しばしば圧倒されていた。
 船に乗る乗客、船員たちが、皆満面の笑みで拍手をしながら何事かを口々に言っている。
 その中には、リックとロブスターも混ざっていた。
「よ、ルーク・チャンス!」
 とリックが叫んでいる。
 猫達が口にしている言葉は、ルークやリスベル達に対しての、感謝と激励の言葉だった。

「何でみんな……今日はリスベルの誕生日?」
「いいえ」
 リスベルは首を振る。
「じゃあどうして」
 ルークが目をぱちくりさせそう呟くと、後ろでチーズ船長が言った。
「我々をバハムートから救ってくれたではありませんか」
「……今までにこんな事、されたの初めてだよ」
 ルークが戸口で突っ立ったままでいると、
「入りましょうよ、ルーク」
 そう言って、リスベルが手を引いた。

 中に入ると、ルークとリスベルに猫達が押し寄せてきた。
 握手を求める猫や、ルークの毛を一本くれだなんて言う猫までいる。
 さすがに毛の申し出は断ったが、どの猫にも、ルークはぎこちなく握手に応えた。
 隣でリスベルも、「ありがとうございます」と言葉を交わして嬉しそうにしていた。

 しばらくの間、猫達が絶え間なくルークに話しかけてきた。
 その様子を見ていたリックが、
「ルーク、会話を弾ませるのはいいけどよ、朝メシ食わなきゃなくなるぜ」
 と笑った。
 それでルークは、思い出したように、給仕の猫に頼んで取り皿とフォークをもらった。
 歩きながら、長方形のテーブルに並べられた料理を、持っていた取り皿に盛っていった。


 取り皿にたっぷり盛った"魚のつみれ"を頬張っていると、
「こんにちは、"フォーハンズ新聞"の者ですが」
 と毛並みの整った、茶色い縞のある雄猫が声を掛けてきた。
 その猫は被っていた帽子を一度取って礼をし、
「バハムート退治の件について、少しだけお伺いしたいのですが」
 と問うてきた。
「えっ、えっ……」
 困った顔でリスベルの方を見ると、記者は「お仲間の方々にはお話はお伺いいたしましたので」と言う。
 リスベルが、
「記者さんに答えるの、楽しいですよ」
 とにっこり微笑んで言うので、断るわけにもいかなくなってしまった。

「何を答えればいいんですか」
 記者は懐やポケットをごそごそ探り、手帳とペンを手にしていた。
 手帳のページを何枚か捲ると、
「バハムートから最後にお出になったのが、黒猫さんと……ルークさんだとお見受けしております。
そして何匹かの猫にお話を伺っていると、ルークさんが退治したのではないかという」
「ちょ、ちょっと待ってください。
俺が退治したんじゃありません。
それにバハムートは、退治したわけじゃありません」
 ルークが慌ててそう言うと、
「そうなんですか?」
 と記者は目を丸くして言う。
「違います」
 ルークは取り皿とフォークをテーブルの端っこに置いた。
 そして誤解がないように、覚えていたことを簡単に、記者へ説明して聞かせた。

「バハムートは謎の鉱石に操られていた。
そしてその鉱石を打破し、ルークさんはバハムートを助けた、そう言うことですね」
 記者の言葉に「うん、でも俺一匹がやったんじゃないよ」と付け加えた。
「しかし、お話を伺っていると、最終的にはルークさん一匹でその鉱石と対局なさっていたという事になりませんか?」
「うーん、でも俺、途中で意識がなくなっちゃったから。
ちっとも覚えてないんだ」
 ルークは答えに詰まってしまい、困り果てて耳を撫でつけた。

「フォーハンズ新聞の記者さんよ。
それはな、この俺様、リック・ゴードンが活躍してだな」
 突然どこからともなくリックが現れた。
 リックは記者の隣に立つと、
「バハムートを矢でぎゃふんと言わせたんだぜ。
どうよどうよ、俺みたいな良い男、新聞一面に載せたら部数もアップするぞ。
今日はちょっと体調良くないけどよ、それなりに良い笑顔、サービスしとくぜ」
 リックがそう言うと、記者は「リックさんのお話はたくさん聞きましたので」と苦笑している。
 ルークは、記者がリックに絡まれている間に、取り皿に入った魚のつみれを頬張りながら、そそくさとその場から逃げ出した。

 大広間から出たところで、ふう、と一つ息を吐いた。
「悪いこと、しちゃったかな」
 ちらりと振り返ると、記者はルークを探しているようである。
「ああいう事は、リック・ゴードンに任せておけばいい。
ルークの趣味じゃないだろう」
 ふと足もとから声がした。
 見下ろすと、廊下に座り込んだロブスターが、ルークを見上げていた。





 その後、朝食を食べ終え、部屋に戻ったルークは、部屋の荷物を纏めた。
 室内の片づけを始めていると、部屋をノックしてリスベルが入ってきた。
「ルーク、先に帰っていたんですか」
「うん、ごめんね」
 そういえばリスベルを放ったまま帰ってしまった事に、今になって気づいた。
 けれど当のリスベルは、あまり気にした風でなく、
「部屋の片づけ、して下さったんですね。
私ちっとも手伝えませんでした、ごめんなさい」
 と言ってきた。
「うううん、そんなに散らかってなかったから」
「私も、荷物の整理しなくては。
ルークはもう、準備万端ですか?」
 ベッドに腰を下ろしたルークは、頷いて言った。
「うん、俺は準備万端」



 ブアァァァァァーーーーッ

 船の汽笛が大きく鳴った。
『まもなく、船はエクレア・イーネの港に到着いたします』



 準備の終えたルークとリスベルは、リックとロブスターの部屋へと向かった。
「それにしても、あのふたり、同じ部屋で大丈夫だったのかな」
 向かう途中ルークがそう言うと、
「ルークの看病をするために、私はルークと同じ部屋になりました。
わかりませんけれど……ロブスターさんが一緒でしたし、リックの事は心配なかったと思いますよ」
 とリスベルは部屋の戸を開けながら言った。
「リックとロブスターがふたりだけだった、ってところが、心配だったんだけど」
 ルークの呟きは、どうやら伝わっていないようだった。





−船の一室−

「準備できた?」
 そう言って中に入ると、低い呻(うめ)き声が返ってきた。
 室内にはロブスターの姿はなく、リックがベッドに寝転がって呻いている。
「リック、もうすぐ港に着くよ」
 近づくと、リックはごろんとルーク達に背を向けて言った。
「うぅ、また気分が悪くなっちまって……少し寝かせてくれぇ」
「リックは昨日、ちゃんと寝ていなかったんですか?」
 リスベルはそう言いながら、代わりにリックの荷物纏め始めた。
「テーブルの上に置いている物と、ベッドの下の物だけですか?
一応、後で確認してくださいね」
 詰め込むと、リスベルはリックの鞄を出入り口の近くに置いた。

「ありがとよ」

 準備も整い、後は船が着くだけとなった。
「そう言えば、ロブスターは?」
 ふと黒猫の姿がないのに気づき、ルークは言った。
「チーズ船長のとこ、おぇ」
 リックが短くそう答えた。





−船長室−

「さすがにロブスター殿はお鋭い。
このフォンデュー号は、こうして猫達の渡船として使われる以前、違う使われ方をしていました。
フォンデュー号を含めると、世界には3隻(せき)。
……どこでお気づきに?」
 チーズ船長はそう言いながら、葉巻をくわえた。
「船長が船の動力についてお話になった時です。
バハムートによって破壊されたかもしれない船の機関室に、船長は断固として、どの猫にも立ち入らせることをしなかった。
そしてただ、この"船はもう動かない"と」
 ロブスターはチーズ船長から差し出された葉巻を、「いや、結構です」と断った。
 船長は室内から見える海を見つめながら、
「リスベル殿が居(お)られなければ、私は船を降りていたでしょう」
 と目を伏せた。

 ロブスターも海の方を見つめながら、話し出した。
「大船フォンデュー号は、古来の猫達によって作られた造形物であった。
その動力は不思議な鉱石。
それがバハムートを惹(ひ)きつけたのか、定かではありませんが……この船が造られた目的に、何か意味するものがあるのかも、しれません。
私が察するところによると、この船は、海の民との戦いで、用いられた船ではありませんか?」
「私も知らない遠い昔から、フォンデュー号はあったとは聞いている。
だがおそらく、ロブスター殿の仰る通りでしょう。
……私は今回の一件に関しては、ロブスター殿やその仲間達が乗船されていた事を感謝するばかりです。
謝意の言葉だけでは言い尽くせない感謝をしています。
リスベル殿に至っては、あの方が魔法使いであった事に、本当にこの居合わせに何と言っていいものか」
 船長は話す言葉とは裏腹に、話し方はどこか静かで、悲しげであった。
 ロブスターは再び葉巻を手にした船長の手元を見やりながら、口を開く。
「心配されずとも、いずれフォンデュー号は、動かなくなりますよ。
この船の原動力が、鉱石に蓄えられた"魔力"なのですから。
リスベルの注いだ魔力で再び動いていたとはいえ、何十年先、何百年先、いずれ力を絶やして船は止まります」
「……それは嬉しいようで、悲しい話だ」
 そう言って、船長は一つ煙を吐いた。

 ロブスターは囁くように問うた。
「チーズ船長は、この船に乗るのは苦痛ですか」
 その質問に、船長は少し笑った。
「さぁ、わからないよ。
船長でいることに、不満を感じたことはないがね」

「一つお聞きしたい事があります」
 船長が「どうぞ」と答えたので、黒猫は言葉を続ける。
「……どうして船長になられたのですか?」
 吸っていた葉巻を傍らに置くと、チーズ船長は海を見つめたまま話しだした。
「むかーし、私がまだ子供だった頃、海で美しい女性を見た。
その女性は、上半身は猫の姿をしていたが、下半身は魚のように鱗が覆っていて、足はひれになっていた。
とても綺麗な、白猫だった。
海で泳ぐあの女性を見てから、私は海での生活を憧れていた。
今でも彼女が泳ぐ姿を見るたびに、この海が好きになる。
この船に乗っていることに、幸せを感じる
……君も、そう思わないかね?」





 ブアアアァァァァァーーーッ


 時は太陽が空高く昇り始める頃。
 船は、ゆっくりと、エクレアの港へと近づく。
 船の旅はもうすぐお終い。





−船の一室−

 大きく鳴った船の汽笛音と共に、

 ガッチャ

 部屋の扉が開いた。
「……港に着いたぞ」
 ロブスターが現れた。

「うん。リック、船、着いたよ。降りるよっ」
 ルークはそう言うと、自分の荷物を手に持った。

「何だ、もう着いちまったのかよぉ」
 リックはのっそりと起き上がった。
 そんなリックを見て、リスベルが言う。
「だらしありませんよ、シャキッと」
「だらぁん」
 リックは気を抜いたようにふざけた。
 そして手をダラダラと振りながら、ふざけ顔でルークの方に近づいてきた。
「やだ、やめてよリック」
 払いのけても、「ゲロゲロー」と蛙の真似をして、一向に止(や)めない。
 いつまでもそんな事をしていたリックに、
「シャキッです!」
 しまいにはリスベルは、魔法でちょこっと電流を起こした右手で、リックの背中を叩いた。

 バシッ ビリリッ

「ひっひぃっ」
 リックは飛び上がった。

「な、なんて事すんだよっ」
 リックは涙目でリスベルを睨みつけた。
 リスベルは真剣な顔つきで、
「気合いです」
 とウムウム頷きながら言った。

 そんなふたりのやりとりを、ロブスターは戸口にもたれかかって、無表情で見ている。
 ルークは、哀れな様子でこちらを見てきたリックに、
「ははは」
 何とも言えず苦笑した。


 船内アナウンスが入り、ルーク達4匹は部屋を出た。
 そして4匹は、船降り場まで向かった。





−船降り場−

 そこに、チーズ船長の姿があった。
「チーズ船長っ」
 ルーク達は船長に近づいた。
 近くまでいくと、4匹は船長の前に並んだ。
「ありがとうございました」
 ルークがそう言い、リスベルも、
「とっても良い船旅でした、お世話になりました」
 と笑顔で言った。

 船長は、4匹を1匹1匹見つめ、
「ルーク殿にリスベル殿、それにリック殿にロブスター殿。
このフォンデュー号を救って頂いたこと、感謝しています。
あなた達の活躍がなければ、船がこの港にたどり着く事はなかったでしょう。
船員一同に代わって、私から礼を言わせて頂きます」
 チーズ船長はそう言うと、深々と4匹に頭を下げた。
「船長殿、私たちはすべき事をしたまでだ」
 ロブスターがそう言うと、
「ありがとう。この海から、あなた達の旅の無事を祈っているよ」
 チーズ船長は微笑んだ。



 ルーク達は、帽子を振りながら見送ってくれる船長に、手を振りながら別れた。
 船旅を共にした乗客猫たちに紛(まぎ)れ、4匹も大船フォンデュー号を降りた。



「新しい地に到着だねっ」
 ルーク達は実感するように、地面を踏みしめた。
 そして港よりもう少し向こうにある、"エクレア・イーネ"街へ向けて歩きだした。
「……うぅ」
 リックはまだ気分が悪そうだ。
「大丈夫ですか、リック?」



 空高くから太陽は、旅猫(クォーツ)たちを照らしていた。
 けれど徐々に、厚い雲が太陽に被(かぶ)さろうとしている。
 前方の空には、街の上を覆おうとする黒い雲が見える。
「……雨が降るな」
 ロブスターがその空を見上げてそう言った。






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・・・第七話についてのひっそりコメント★
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