ロブスターの新しい武器が登場です

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*第七話・大船フォンデュー号2*





「ところでロブスター、フィンさんが持ってきたそれって、なぁに?」
 ルークはロブスターの持つ"細長い物"を見つめた。
「……これは、海の民が死した仲間の念を込めて作り上げた武器らしい。
マーメイドとマーマンの鱗などで作られていると聞く」
 そう言うと、ロブスターは何かの皮で包まれたそれを片手に鎮座した。
 皮の包みにぐるぐると巻かれた紐を、ロブスターは解き始める。
「この皮、水竜の皮みたいですね……希少価値のある、高価なものですよ」
 床に置かれたその皮を、リスベルは興味深そうに触った。
 
 ロブスターは、包みから出てきた一振りの剣のようなものを左手に取った。
「変わった剣だな、剣にしては細身だぜ」
 リックのその言葉に、
「これは刀だ……剣は刺突(しとつ)を主体にした武器だが、これは違う」
 と返答し、ロブスターは右手で柄を握り、静かに鞘から刀を抜いた。


 刀は滑るようにして鞘から抜かれた。
 冷たい色をした、鋭利な刃が姿を現す。
 それは緩やかなカーブを描いていて――何だか剣より細くて華奢に見えた。
 刃の部分はほんのり白みを帯び、波のような模様があった。

 
「刀銘“紫竜刀(しりゅうとう)"。水の力を秘めた魔刀だ。
刀の特徴は、反りがあり片刃であること。剣よりも素早い斬撃をおこなえる。両手で柄を握って使うものだ」
「綺麗だね、何だか武器じゃないみたい……」
 言いながら、刃先をちょんとルークは触った。
「ルーク、危ないぞ!」
 リックの声にハッとして、ルークは手を引いた。
 指に血が伝っている。
「わぁ、切れてる」
「気づかなかったのですか? ルーク」
 リスベルが慌ててローブから薄い布を取り出して、ルークの指に巻きつける。
「ぜんぜん痛くなかったから気づかなかった……凄い切れ味」
「何暢気なこと言ってんだルーク、気をつけろよ」
 そう言ったリックに、うんと言って、ルークは耳を撫でつけた。

 刀を鞘に収めながら、
「随分と、私のために作り変えてくれたようだ」
 と、ロブスターはうっすらとした笑みを顔に浮かべていた。





 その後、それぞれ一匹一匹、船で好きな時間を過ごした。


 コリコリコリ

 大好きなハニーナッツを囓(かじ)りながら、ルークは海を見つめていた。
 そんなところへ、リックがやって来る。
「この船、ほんとうまい物いっぱいあるぜ。
でも、ちょっと食べ過ぎたな、げふっ」
 そう言って、ルークのハニーナッツ袋に、リックは手を突っ込んだ。
「あぁリック、お腹一杯なら食べないでよ」
「コリコリ……この歯応(はごた)えがいいよな、ハニーナッツ」
 ルークの言葉は何のその、幸せそうに頬張っている。
 そんなリックを見つめながら、ルークはふと思う。
「リック、最近……ちょっと、太ったね」

「……」
 リックの動き、全てが止まった。

「うーん、締まりがなくなった?
リックもう少し、食べるの控えた方がいいよ」
「……俺、太った?
ルーク、今俺に締まりがないって言ったかぁあ!?」
 リックは目を見開いて、ルークの顔を直視する。
「あ、いや……俺の、気のせいかもしれない、よ」
 ルークは困った。

「あぁ、俺……締まりがない、顔に? 致命的だ。
俺はホッソリした体に似合わず、密かにムキムキが取り柄だったのによぉ。
あぁそういや、最近稽古(けいこ)もサボり気味だったしなぁ」
 リックはブツブツと何か言っている。

「俺、何か余計な事言っちゃったかな」
 心配げにルークが顔を覗き込むと、
「っっおぉおっし!
ルーク! たった今から俺は、顔も体も全て引き締めるぜっ。
見てろよ、船が港に着く前に、俺は良い男を更に磨いてやるからな。
これで俺はエクレアの街で猫気者だぜ」
 大きく頷いたリックにつられ、なぜかルークも頷いていた。


「さーて、そうと決まれば。
用意周到、準備万端……なんたらかんたら」
 そう言いながら、大きく腕を振ってリックはその場を去っていった。


「リック行っちゃった。
……リスベルはまだ、海見てるのかな」
 ルークがそう呟きながら後ろを振り返った時だった。
「わっ!? リスベル、いたのっ」
 気配もなく後ろにいたリスベルに、危うくぶつかるところだった。
「はい、さっきからいましたよ。
ルークが何をしているのか、気になったものですから」
 リスベルはそう言って微笑んだ。
「ハニーナッツ、食べてたよ。
さっきまでリックと話してたんだけど」
 ルークはそう言いながら、リスベルにハニーナッツの袋を傾けた。
「頂きますっ」
 リスベルは袋に手を入れた。

 2匹はハニーナッツを頬張りながら、潮風に吹かれた。
「そう言えば、ロブスターはどこに行ったのかなぁ」
 ルークがそう言うと、
「ロブスターさんならチーズ船長と……あ、あそこです。
お話されてますよ」
 とリスベルが言い、2匹はそちらへ目を向けた。





−甲板の一角−

「葉巻でもどうですかな?」
 チーズ船長はそう言い、懐から葉巻を2本取り出した。 
「頂きます」
 ロブスターが1本受け取ると、チーズ船長は小さな四角形をした厚紙のようなもの、"ファル(火付け紙)"を胸ポケットから出した。
 よく使われた感のあるファルの内側、まだ発火材が残っている赤紫色の部分を、外側からクシャリと摺り合わせる。
 じんわりと、小さな火が熾(おこ)った。
「どうぞ」
 チーズ船長が差し出した火に、ロブスターは葉巻を寄せた。
 葉巻の先がぼんやりと、オレンジ色を灯らせる。
 キノコを焼いているような香りがして、煙が一筋、ゆらりと立ち上った。
 船長は自分の葉巻にも火を灯すと、ファルの一部分で燃える小さな火をフゥっと勢いよく吹き消し、ファルを胸ポケットにしまった。

「葉巻を吸うのは久しぶりだな」
 葉巻を口にしたロブスターは、落ち着く苦い香りを味わいながら目を閉じた。
「どうですかな? 私はいつも船の上で、海を眺めながら吸うのが癖になってしまいましたよ」
 ロブスターはフーッと口から煙を吐きながら、
「なかなか良い香りがしますね。
これは、"チップス・イル(街の名前)"の葉巻ですか」
 と聞く。
「ええ、そうです。
私がよく口にするものです。
今私が、あなたが吸っているのはアシュリアという葉巻です。
もう少し吸っていると、ほのかにドライフルーツの味わいがするんですよ。
そしてあと一本、私のお気に入りの葉巻がここにあるマーメイド。
どちらも船の上で一服すると、陸では味わえない広がる味わいがするのですよ」
 船長の指先の毛が、焦げ付いているのを見つけ、思わず、
「随分とお吸いになられるのですか?」
 と問うと、船長は恥ずかしそうにした。
「あぁ、これに気づかれたのですね。
海を眺めながら一服すると、時を経つのを忘れてしまって、つい指を焦がしてしまうんですよ。
……吸い過ぎは身体に悪いと、帰宅するたび妻に窘(たしな)められてしまうんで、つい船上でね」

「そうですか、しかし叱ってくれる猫がいるのは羨ましい話です。
私は百年ほど生きて、今まで体を害した事はありませんが」
 ロブスターのその言葉に、
「あはははは、随分と丈夫な体をお持ちのようだ。
面白いお方だ、私もそのような体でありたいものです」
 とチーズ船長は微笑んだ。
「……」
 ロブスターは、愛想笑いを返した。





 ルークとリスベルの間に割って入るようにして、
「あの2匹は、年寄り同士話が合うんだろうよ」
 リックが現れた。
「はは」
 ルークは苦笑した。



 和やかだった船旅は、船が急に止まった事で一変した。
 止まって間髪入れず、何かが船に突進したかのような衝撃が船体に走る。

 ドスン! ドドドドドッ

「う、うわぁあ」
「なんだ一体っ!?」
 船が大きく揺れた。

「チーズ船長! チーズ船長!!」
 そう叫びながら、ルーク達の側を船員が駆けていった。

「この大きな揺れは」
 チーズ船長の問いに、駆けてきた船員は声を絞り出すようにして答える。
「ヤツです、例の"船荒し"が現れました」
「ついに私の前にも現れたか」
 チーズ船長は船員の肩を落ちつかせるように叩くと、ロブスターにすみませんと一礼し、船内へと入っていった。
「すみません、失礼します」
 そう言って、船員も去っていった。
 ロブスターは葉巻を片手に、周囲を見渡した。



 ドドーン!

 2度目の大きな揺れと共に、船はスピードを上げて動き出した。
 大きな揺れは収まった。
「何だったんでしょう、今の揺れやさっきの揺れは」
 リスベルがそう言うと、
「船底に何かいたんだろう」
 そう言うロブスターの声がした。
 気づくと側に、葉巻をふかすロブスターが立っていた。

「いつの間にいたんだ」
 リックがボソリとそう言う。
「船長が船のスピードを上げるように言って、何とか一時的に揺れが収まった程度。
時機にまた大きな揺れがくるだろう。
用意ぐらいしておけよ、リック・ゴードン」
 とロブスターは言い、顔を背けた。
「脱出する用意か?」
 リックの言葉に、ロブスターの代わりにルークが答える。
「たぶん、戦う用意だと思うよリック」
「な、何で俺なんだよ」
 リックはムッとした。

「海の上からだと遠距離の利く攻撃が有利だ。
それに、一番ヒマそうに船上を彷徨いていただろう」
 ロブスターはチラリとリックを見る。
「っはは、気遣いどーも」
 嫌みたっぷりの微笑をリックは返した。


 ドドーン!

「わっわわ」
 また船が大きく揺れだした。
 気がつけば、海の波は高くなっていて、ザブンザブンと荒れ狂っている。

「キャーッ」
「わあぁぁっ」
 乗客たちが甲板から、船員たちと共に次々と船の室内へと逃げ入っている。
 そしてルーク達のところにも、
「皆さん、早く中へお入り下さいませ! ここはとても危険です!」
 慌てた船員2匹が駆け寄ってきた。
 リックは彼らに余裕の笑みを浮かべ、腕をグルグルと回し準備体操をしながら、
「諸君、気遣い結構。
今からこの俺様が、この船を救ってやるぜ。
船底にいる、未知なる生物をよぉ」
 と言った。
「……ご冗談を」
「他の皆様も早くこちらへ」
 船員たちはそんなリックも、ぼんやりとしていたルーク共々、素早く甲板から避難させようとした。
「ちょ、ちょっとぉ、俺が何とかするって言ってるだろう!」

 背中を押されたリスベルが、意地で突っ立って声を上げる。
「待って下さい! 私たちは、ただの猫ではないんですぅ!」
 そう言うとリスベルは魔法で火花を出した。
 船員たちは目を丸くする。
 けれど、目をこすって「見間違いだ」とお互い言い合うと、船員達はまた、船内へ入れようと引っ張ってきた。
「……ここは、我々に任せてくれないか」
 その声に振り返った船員たちは、背後のロブスターを一目見て静止する。
「このままだとこの船は確実に沈む。
我々は魔物と対等に戦うことができる、任せてはくれないだろうか」
「は、はぃ」
 揃って返事をすると、2匹の船員は諦めた様子でその場を立ち去っていった。

「すごいやロブスター、船員たちを言いくるめちゃった」
 ルークが感心する一方で、少し毛並みを乱されて不機嫌顔のリックが、
「妙な技でも使ったんじゃねーのか」
 と細めた横目でロブスターを見ていた。


 ドドーン!
 船がまた大きく揺れた。

「うおっし、俺様の腕の見せ所だぜ」
「リック、援護しますよ」
 リスベルはそう言って、リックの隣に立った。

「ロブスターはその端にでも立ってろ、俺の凄さを思い知らせてやるぜ。
ルーク、お前も俺のイイ男ぶりを、おとなしくそこで見てるんだぞ」
 リックはそう言い残すと、リスベルと共に、もう誰もいない静かな甲板の中央部へと歩きだした。


 無言で葉巻を吸っていたロブスターが、
「ルーク」
 急に、低い声で呼ぶ。
「な、何?」
 ルークはちょっとびっくりした顔つきでロブスターを見つめた。
「どうやら、この船底に潜むヤツは、少々手強い相手のようだ」
 その言葉にルークが何か言い返そうとする前に、
「あいつらがどこまでやれるか見物だ……行くぞ」
 とロブスターは吸っていた葉巻を近くの灰皿に擦りつけ、その場を動き出した。

「えっ!?」
 ルークは慌ててロブスターを追いかけた。


 ザバーン

 大量の水飛沫と波が、船に降り注いだ。
 さっきまで2匹がいた側の、大きく分厚いガラスが粉々に砕け散って辺りに散乱した。





「さぁさ、これからどうするかな。
ヤツは船底にいるんだ」
 リックがそう言いながら海を覗き込むと、
「私が、魔法で誘き出しましょう」
 とリスベルは言った。


 リスベルはサッと右手を出すと、右手の猫差し指で空にジグザグを描いた。
 口を小さく動かして、呪文を唱える。
 目標とする場所を、水しぶきに動じず見開かれた緑の目で直視し、呪文の最後の言葉を発した。
「ピカヴァ(雷撃)」

 一瞬、空から強く光る稲妻が、海へと走るのが見えた。
 激しく打たれた太鼓のような音をさせ、うねる一筋の光が、海の中へと消える。
 雷鳴の起こした音の震えが、船から猫達の足にまで伝わった。

 ギギィ ギギギィィィ

 船はまるで悲鳴のような軋(きし)み音をあげながら、グラグラと揺れる。
「……」
 ルークは思わず、口を押さえた。
 先ほどまでの激しい船揺れでため込んでいたものがここで一気に迫ってきた、とてつもなく気分が悪い。
 のんびりと食べていた頃の形なきハニーナッツが、のど元にまで迫ってきている。
「大丈夫か、ルーク」
 ロブスターが心配そうに見ている。
「うん、何とか」
 ルークは口に当てていた手を放した、が、また塞ぐ。

「コレを食べろ」
 ロブスターがそう言いながら懐から何かを取り出し、ルークに手渡した。
 薄い青色の飴玉みたいだった。
 この状況で食べられるかなぁと思いつつ、「食べれば楽になる、とりあえず口にしろ」というロブスターの言葉を信じて、ルークはそれを口に入れた。

 口に入れた途端、スッと爽快な味がした。
 柑橘系のような、そうでないような味が口に広がる。
「これ、変わった飴だね」
 グニャグニャとした変な触感のする飴だった。
 なぜかそれを噛んでいると、ルークの気分は良くなった――形なきハニーナッツが、おとなしく腹の底に収まってくれるのを感じた。
「利くだろう、フィンがくれた酔い止めだ」
 ロブスターはそう言って、チョロッと舌を出した。
 その舌の上にも、それはあった。


 ギギギィィ ギギィィィ


 激しい揺れは続く。
 右へ左へだけでなく円を描くようにも船は揺れ動く。
 時折船は海へ引き込まれるような体制にもなり、その度に悲鳴を上げる猫たちの声が強まった。
「この船、大丈夫かぁ」
 リックは不安そうな顔で、近くの柱にしがみついた。
「リック!」
 リスベルの叫び声に、リックがハッと正面を向いた時だった。

 大きな波が船を襲った。
 波は甲板にいた全てのものを覆う。

「うぅう、驚いた」
 リックは塩水を口から吹き出して、体をブルッとさせる。
「リック!」
 再度リスベルがそう叫んだ時には、正面から無数の魚が飛んできた。
 一瞬、本能的に食らいつこうかと口を開いたリックだったが、
「ただの魚じゃねぇっ!?」
 慌てて口を閉じ、つるつるとする甲板の上を小走りに、リスベルの後ろに隠れた。


 ガシャン ガシャンガシャン

 鋭い槍先のような口をした魚が、船のあちこちに突き刺さる。
 異様な体つき、綺麗とは形容しがたい緑や紫色をした何十匹もの魚が、ありとあらゆる場所に襲い掛かる。
 不気味な魚たちは、突き刺さり、身体ごとぶつかって、船上のものを音を立てて破壊していく。
「リック、こっちに来ますっ!」
 叫んだリスベルの頭をぐいっと床に押しやって、自分も低く屈み、飛んできた魚を避けた。
「また来ますよ!」
 顔を上げたリスベルのおでこをゴツンと床に押しやって、
「おおっと」
 リックは緩やかに飛んできた魚を手で掴もうとした。
「うわ、気持ち悪りぃ」
 ヌメヌメした手触りに、思わずリックは魚を手放す。
 魚を放した後も、手にはネッチョリと糸を引きそうなヌメリが残っていた。
「あぁあぁ最悪」
 小さくそう言って、リスベルのローブの端でそっと手を拭った。
 

 しばらくして、気味の悪い魚群の攻撃は治まった。
 静かになった辺りを見回し、縮こまった身体を起こして、立ち上がろうとした時だった。

 ドドーン! ドドドーン!!

 今までにない揺れが船を襲った。
 船にまた、波と水飛沫が舞う。
 空は晴れ渡っているというのに、猫たちを乗せた船の辺りだけ、まるで大時化(しけ)のような海の荒れようだ。

 ルークは何かを直視するロブスターの背後から顔を出し、海の方を見た。
 その時だった、海の中に何かの姿を見た。
 海底で、ゾワゾワと得体の知れないものが蠢(うごめ)ている。
「何っ」
 思わずそう声に出したルークに、
「あれは」
 と何か言おうとしたロブスターは、慌てた様子で「目を伏せろ!」と叫んだ。
 ルークはよくわからにうちに、ロブスターのマントの裾で目を覆われていた。

「何だって?」
 状況のわからない顔で、リックがロブスターの方を振り返る。
「リック、とにかく目を開けていてはダメです」
 リスベルがそう言った直後、船は大きく右へ傾いた。
 
 突如海面から、ものすごい光が押し寄せた。
 真っ青な空から照りつける太陽光を凌(しの)ぐほど、激しい、刺さるような眩(まぶ)しさ。
 マント、そして瞼を通しても感じるその光に、ルークは驚いた。
 目を瞑っているというのに、まるで太陽を直視している時のような目の痛みを感じる。
 不思議な感覚に、思わず瞼を開いてしまいそうになったが、
「光がやむまで目を開けるな」
 ロブスターの低い声が、それを止めさせた。

 ブファっと、奇妙な音が聞こえた。
 船が前方へ大きく傾くのを感じる。
 けれど目を瞑っているので、何が起きているのかさっぱり状況が掴めない。
 ギシギシと、船が嫌な音を立てているのを聞いて、
「船が、沈むっ」
 恐怖を感じたルークは、思わずロブスターにしがみついた。


 船の揺れが、徐々に治まっていく。
 激しい光が、どんどんと柔い光になっていき、
「もう大丈夫だ」
 と言ったロブスターの言葉を聞いて、ルークはゆっくりと目を開けた。
「……」
 頭上から、何か言いたげに見つめるロブスターを見て、
「あっ、あっ」
 慌ててロブスターから離れた――恥ずかしい衝動に駆られるまもなく、船がまた、海底から揺すぶりを受け始める。
 ルークは爪を立てて、近くにある柱の一つに掴まった。
 ゴポゴポと泡立つ海面を見つめながら、
「"バハムート"だ」
 と神妙な顔つきでロブスターが言った。

「あれはバハムートです。
見る者を気絶させるほどの光を放つ、海に住む巨大魚。
……私が以前読んだ本に書かれていた特徴と酷似しています。
詳しい生体は知られていませんが、普通の魔物と同じように扱ってはいけません。
気をつけてください」
「そんな大それたヤツなのか、その……バハムート!?」
 リックは思わず叫び声を上げた。

 また海面に光が現れた。
 船は転覆しそうな程に、激しく揺れ出す。

「光のせいで、攻撃することも近づくこともできないんじゃ、どうしようもないじゃないか!」
 顔を青くしながら叫んだリックを見つめ、リスベルは思案の表情をする。

「ロブスター、このままじゃ船が沈んじゃうよ。
何か良い方法はないの? あぁ、また光だ、海面に顔を出すよ!」
 顎に手をやり考え込んだ表情をして、ロブスターは黙す。
 ルークが三度目の瞬きをした時、何かを思いついたように、ロブスターは頷いた。
「リスベル」
 低いロブスターの声が甲板に響く。
 緑色の目を瞬かせ、ローブの猫は振り返った。

 バハムートの発する光はだんだんと強いものになってきていた。
 ルークは目を閉じ、しがみついた柱におでこを当てて、迫りくる光と揺れを待った。
 同じような体制で、離れたところにいるリックも、口に手を当て柱にしがみついていた。

「あの光のもとを絶つことはできないか!
もしくは、覆うことでもいい、そうすれば我々は何らかの攻撃ができるようになるはずだ!」
 ロブスターの言葉に、リスベルは頷いた。
「はい、やってみます!」
 そう言うと、リスベルは小さな球体をなぞるように両の手を動かした。
 小さく低い声で何事かを早口に言い、やや声を大きくして、
「アンキュウ(暗いとばり)」
 と言い放った。
 リスベルはまるで何かをかかえるようにしていた両手の上に、フゥと息を吹きかける――途端、灰色のモクモクとした煙が、無色の球体の輪郭を浮き彫りだたせた。
 
 海から徐々に近づいていた光が、急に萎(な)え始めた。
 光はだんだんと静かなものへと変わった――それとは逆に、船の揺れは激しさを増す。
 海面に巨大な影が現れる。
 そしてその主が、ついにルーク達の前に姿を現した。





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