
次の街へと旅立つルーク達、フィンさんとはもうお別れです。
quartz
*第七話・大船フォンデュー号1*
−出発の朝− 「リック、もうすぐ出発だよ!」 ルークは寝ているリックを揺すった。 「ううーん……起きるよ。 俺はすぐに用意すっから、ルーク……お前先に自分の用意してろっ」 そう言うと、目をショボショボさせながら、リックはまたベッドに潜ってしまった。 それを見やってリスベルは言う。 「リック。 ルークも、私もみんな用意はできました。 後、リックだけです」 するとリックは、 「……俺だけっ!?」 飛び起きた。 ロブスターが扉の前で、 「置いていくぞ」 と言うと、リックは慌てて用意を始めた。 「何でもっと早く起こしてくれなかったんだぁあ!」 「何度も起こしたよ……リック」 −フィンの家の前− ガッチャ フィンは家の鍵を閉めた。 ドンドンドン 扉を内側から叩く音が。 「まだ俺がいるよ! フィンさ〜ん!!」 リックが家の中で叫んでいた。 「あらリック!? ごめんなさいっ」 フィンはそう言うと、慌てて鍵を開けた。 「はあぁあ〜、びっくりしたぜ。 今度はほんとに、置いてきぼりかと思った」 リックがそう言いながら出てきた。 「ごめんなさいね、リック」 フィンが申し訳なさそうにそう言うと、 「いや〜、フィンさんのせいじゃないですっ。 俺が悪かったんだぜ」 リックはそう言い、照れでれとフィンさんの顔を見た。 「全く、その通りだ」 ロブスターは一つため息をついて、港に向かって歩きだした。 「ほんとごめんね、リック」 フィンはそう言い、戸締まりをすると――ロブスターの後を慌てて追いかけていった。 ルーク、リスベル、リックの3匹も、港に向かって歩きだした。 道中。 「……」 「船はもう着いている頃だわ」 フィンはそう言いながら、ロブスターの乱れている襟や服を整えた。 「あ、そうだわ」 そう言ったフィンはルークの肩をトントンと叩いた。 「これ、餞別(せんべつ)」 フィンが手渡してきたのは、船のチケットだった。 「私にはこれくらいの事しかできないから」 「そ、そんな……泊めてもらった上、美味しい食事まで頂いて」 口をパクパクするルークに、 「一緒に楽しい時間が過ごせて、嬉しかったわ」 とフィンは微笑む。 「フィンさんありがとうございます!」 「あぁ、フィンさんどこまで素敵なんだぁ」 「わーい」 「はい、ロブスターあなたの分」 遠巻きに見ていたロブスターにもフィンは手渡す。 「今日の船は客船主体だから、美味しいものも出るんじゃないかしら。 私のお知り合いの船だから、優遇が利くかもしれないわよ、ふふ」 「そうか、子猫たちが喜ぶだろう」 そう言ったロブスターの顔を覗き込んで、 「あなたは?」 とフィンは聞く。 「あぁ、嬉しい」 「そう? 良かったわ、私も嬉しい」 「くそぉ、俺があと十ほど歳を取っていれば」 リックは何やらぶつぶつと言っている。 とても不機嫌そうなので、何だか近寄りがたい。 ……それとは裏腹の、にこにことしたリスベルは言う。 「船とはどんな物なのでしょうか。 楽しみですね、ルーク」 「うん……リスベル、嬉しそうだね」 「船は初めてですからっ」 リスベルは笑顔でそう答えた。 −大船フォンデュー号− ブアァァァァァーーーーッ 大きな汽笛の音が聞こえてきた。 ――港に着いた。 大きな船が、たくさんの猫たちに囲まれている。 「うわぁ〜っ! あれが、船ですか〜っ!!」 リスベルは歓喜の声を上げ、船をじーっと見つめだした。 青空に映える白い帆。 猫が数百匹乗れると言うその大きさは、ルークが今まで見た乗り物の中で一番大きかった。 海に接する船体部分は、海底よりも深い色、濃紺――日の光を浴びて、そう見えていた。 甲板には慌しく動き回る船員、そしてもう搭乗している船客がいる。 大きな箱荷を運び込む男たちの姿もあった。 「あ、"チーズ船長"だわ」 フィンはそう言うと、小走りに、船へと向かっていった。 ルーク達もまた、その後を追って歩いた。 「チーズ船長っ!」 フィンがそう叫ぶと、1匹の老いた男の猫が振り返り、 「……フィンちゃんじゃないか!」 と言った。 側にいた船員に何か事を伝えると、その猫はルーク達の方へ近づいてきた。 フィンはやって来たその猫を紹介した。 「この方がチーズ船長、この船の船長さんよ」 「こんにちは、私はこのフォンデュー号の船長を務めているチーズ・ホットマンと言います」 チーズ船長はそう言って被っていた帽子を取り、ルーク達にお辞儀をした。 「こんにちは」 ルーク達も挨拶をした。 取った帽子を被り直しながら、 「それにしても、いやぁ〜フィンちゃん久しぶりだねぇ」 チーズ船長は嬉しそうに微笑む。 「お久しぶりです、相変わらずのお元気ぶりですね。 ……あ、チーズ船長。 今日、彼らこの船に乗船するんです、よろしくお願いしますね」 フィンがそう言うと、チーズ船長は一端、困った顔を見せた。 でもそれはわざとで、すぐにサッと笑顔で快く言った。 「ああいいとも、心地よい船旅を提供するよ」 「やったーっ!!!」 それにルーク達は喜び、フィンはクスリと微笑んだ。 チーズ船長は言った。 「ところで……そこの黒猫さんは、フィンちゃんのダンナか?」 「……」 「……」 フィンとロブスターは顔を見合わせた。 しばらくふたりは見詰め合っていたが、フィンはチーズ船長に向き直り、 「っもーーーっ、チーズ船長ったらっ!!」 と言い、言ったかと思うと、フィンはチーズ船長の肩を思いっきり、 バシンッ! 叩いた、と同時、鈍い音が聞こえた。 「ははは、船はもうすぐ出発するよ。 私は乗らなくては。 君たち、また船の上で会おう」 チーズ船長はそう言うと、乗り場へと、痛々しく肩を撫でつけながら去っていった。 「私たちも乗りましょうっ」 リスベルがそう言い、ルーク達は船乗り場へと歩いた。 ―船乗り場― 「フィンさん、ありがとうございました」 「さようなら」 「また、きっと会いに来ます」 ルーク達はそれぞれ言葉を交わし、フィンと握手を交わし、船に乗り込んだ。 「いつでも寄って頂戴、みんな、気をつけてね」 フィンは手を振りながら、紫色の目を潤ませて微笑んでいた。 「……」 ロブスターだけは無言で、少し間だけフィンを見つめると、背を向けた。 3匹に続き、ロブスターも乗り込もうとした時、 「待って、ロブスター」 フィンが呼び止めた。 ロブスターは振り返り、フィンの方へ数歩戻る。 フィンもロブスターに近づきながら、 「出かける前のアレを忘れてるわっ」 と言った。 するとその言葉に反応してリックが振り返り、 「なっ、何だよっ、出かける前のアレって!?」 と目をぱちくりさせた。 「どうしたのリック?」 ルークも振り返る。 「中を早く見ましょうよ……どうかしましたか?」 そう言いながら、リスベルも振り返った。 「そのまま出かけていくの? また、いつ帰ってくるか分からないでしょ。 お別れくらい、ちゃんとしたいわ」 フィンがそう言うと、 「それもそうだ」 ロブスターは不適に笑むとフィンの両肩を優しく掴んだ。 そして何事かをフィンの耳元で囁くと、その白い首筋――やや項(うなじ)に近いところに口付けした。 「わーぉ」 思わずルークはリスベルと声を揃える。 顔を戻したロブスターを見上げて、フィンはいい形に歪められたロブスターの口端にお返しをする。 「朝早く海を泳いできたの、"白岩"に頬を擦りつけてきたわ」 「じゃあ、あれもしよう」 ロブスターはほんのりと染まった白い頬をペロッと舐めた。 嬉しそうなフィンの顔を横目に見ながら 「海の味、塩魚を思い出す……」 とロブスターは意地悪く少し笑んで言う。 「ロブスターったら、悪い冗談言って」 フィンは頬をピンクにしてそっぽを向いた。 「何かいい感じだね」 ルークがそう言った時だった。 「……ううぅーっ」 そんなリックの呻(うめ)く声がし、 「どうかしたんですかリック? お腹でも痛いんですか?」 と言う、心配げなリスベルの声が聞こえた。 振り返ったルークは、リックの様子に思わず苦笑した。 「分かってたさぁ、俺の叶わぬ恋だってよぉ。 でもよ、悲しいもんは悲しいぜ。 あの2匹の関係……うぅ、しかもこんな公共の場で」 リックがそう言うと、 「リックもああいったものを求めていたのですね」 とリスベルは言う。 ……少し間を空けて、リックは嘆いた。 「俺もキスして欲しかったぁあぁ」 「それなら」 と言って近づいてきたリスベルの額に指二本を突き立てて、 「フィンさんにぃー」 とリックは続きを嘆く。 口を尖らしたままのリスベルは、 「私が代わりに、と思ったのですが」 少しションボリとしたまま、リックの指に押し返された。 「仕方がないよリック」 そう言ったルークの隣で、 「そうですよリック、フィンさんはロブスターさんのこれなんです」 と言って、リスベルが小指を強調して立てた。 リックは悲しげに振り返った。 そうして笑顔で手を振り続けるフィンをしばらく黙って見つめていたが、 「フィーンさーん」 目を潤ませて叫びながら大きく手を振った。 「……叶わぬ恋が、男を強くするんですね、ルーク」 そう言って微笑ましい顔でリックを見つめるリスベルに、 「俺もいつか体験するのかなぁ」 とルークは同情の目でリックを見やった。 リックはがっくりと肩を落として、ハァとため息をついていた。 「何をしている」 眉間に少しシワをよせたロブスターが、リックを横目に問うてきた。 「リックが、別れを惜しんでたみたい」 と、ルークは苦笑した。 「リック・ゴードン、惜しむものがあればここへ残ればいい」 そう言ったロブスターを、リックはむっつりとした顔で見やる。 「心にも無いことを」 フンとリックは鼻を鳴らす。 ……ルークはふたりを見かねて、ロブスターにこそりと言う。 「リック、フィンさんの事が好きだったみたい。 だからロブスターに嫉妬してるんだよ」 「私とフィンの関係を妬(ねた)んでいるのか」 堂々とそう口にしたロブスターに、ルークは驚いた。 ロブスターは続ける。 「だが私とフィンはお前が思っているような関係ではない。 それは誤解だ」 そう言うと、ロブスターはスタスタと歩き始めた。 「……きっと、言えないんですね。 リックを気遣ってらっしゃるんですよ、ロブスターさん」 そんなリスベルの言葉を聞き、 「うぅう、なんて男だアイツは……」 リックはへたり込んで嘆き始めた。 「リスベル、一体鋭いのか鈍いのか」 ルークはひとり、小さく呟く。 それらに聞きかねたロブスターが再び現れた。 「早く中に入れっ、通行猫の邪魔だ」 ロブスターは萎(しお)れたリックを摘(つま)み上げた。 「あぁ……俺は立ち直れねぇ……」 リックを哀れに見やりつつ、ルークは言った。 「俺たちも入ろう、リスベル」 「はいっ」 嬉しそうなリスベルの後に続き、ルークも船内へと入った。 『この度はフォンデュー号にご乗船頂き、ありがとうございます。 この船はエクレア・イーネへ向かいます。 まもなく出発いたします。 ――船長はチーズ・ホットマン』 −フォンデュー号・甲板− 船の甲板に出た時だった。 ブアアアァァァァァーーーッ 大きな汽笛と共に、 ゴゴッゴゴゴッ…… 船は動き出した。 どんどんと、船はスフレの街から離れていく―― 海は穏やかで、眩しい朝の光が、船全体を照らしていた。 リスベルは船の先端に立って、 「うわぁーーーっ、動いてますっ! 海の上を走ってますね、すごいすごいっ!」 と嬉しそうに騒いでいた。 そんなリスベルの姿を見ていたルークだったが、足もとに目を落とした。 そこには座り込み、へろへろとした様子のリックがいた。 「まだロブスターとフィンさんの事、気にしてるの?」 ルークがそう言うと、リックは、 「俺はそんなにしつこい性格じゃねぇぜ……ぅぅ」 と言い、気分が悪そうな顔をした。 それを聞きルークは、 「じゃあ、どうしたの? リック……元気ないよ」 と心配そうにリックを見つめる。 「……船酔い」 リックはそうとだけ言うと、ゴロリと足もとに寝そべった。 「ふ、船酔いっ!? リック大丈夫!? 何かいるものがあったら」 ルークがそう言うと、リックは、 「バケツ」 と即答し、続けて、 「そう言いたいとこだが……今欲しいのは、"ねずみの唐揚げ"。 と、可愛い女の子連れてきてくれ、ぅぅ」 と言い、ルークを足もとから見上げた。 「元気そうだね」 ルークが皮肉ってそう言うと、 「元気じゃねーっ! うぅ。 お願いだぜ、ルーク……おえぇ。 女の子は別として、ねずみ、持ってきてくれよっ、ぅぅ」 リックは青い顔をして言った。 そんなリックを見て、さすがに可哀想に感じて、 「分かったよ」 ルークはそう返し、船内へと入っていった。 それから、船が進んで数十分。 ――もうスフレ・クトンの街はあんなに小さく見える。 青い海を、船は風を受けてグングンと進む。 青い空と青い海に囲まれ――辺りは青一色の世界。 上下を青に挟まれて、まるでこの船はどこかへ吸い込まれていくように思われた。 そんな思いに浸っていたルークの耳に、何かが聞こえてきた。 「ロブスターっ、ロブスターっ」 突然、そんな声がどこからかした。 「ロブスターっ……ロブスターっ」 誰かがそう、叫んでいる。 「?」 ルークは何だろう、どこから聞こえるんだろうか――と、辺りをキョロキョロとしたが、見当がつかなかった。 船の上でロブスターを呼んでいる猫など見当たらない……それに珍しい名なので、あのロブスター以外の猫が呼ばれているとも思えない。 ――ルークの近くには猫気もないし、リックやリスベルの声でもなさそうだ。 船内から甲板へと出てきた、ロブスターの姿が見えた。 「あ、ロブスター! 誰かが、ロブスターを呼んでるよ」 どこから呼んでいるのかわからないけど、と付け加えてルークが言うと、 「そのようだな」 とロブスターは言った。 「……」 徐(おもむろ)に、ロブスターは船の縁から身体を乗り出した。 どうやらその格好のまま、海面を眺めているようだ。 「ロブスターっ!」 呼び声が一際大きく聞こえた時だった。 ザバーーーン 大量の水飛沫(みずしぶき)が飛んできたかと思うと――白い手が、船の縁を掴む白い手が2つ、目の前に現れた。 「!?」 ルークはびっくりして声も出なかった。 でも、次の瞬間。 「あはっ」 そう言って――濡れた白くて綺麗な毛並みに、透き通るようなスミレ色の目をした――猫が現れた。 「フィンさんっ!?」 思わずルークは叫んだ。 あまりの驚きに、ルークはただただ呆然とする。 突然現れたのは、先ほどスフレ・クトンの港で別れたばかりの、あのフィンだったのだ。 「ルーク、船旅はどう?」 海水で少し湿った綺麗な白い毛を撫でつけながらフィンが言う。 「あ……とてもいいです」 そう答えながら、ルークは何だか雰囲気が色っぽいフィンに、いつもより多く瞬きをした。 「そうでしょっ」 フィンはニコッと微笑んだ。 そうしてルークから――反対側にいた相手へと視線を流す。 「ロブスター、持ってきたわ」 フィンは何やら背中に背負っていた"細長い物"を、ロブスターに手渡した。 「使いやすいように、いくつか直してもらったわ」 「すまないな、礼を言う」 ロブスターはそう言って、大事そうにそれを受け取った。 「どういたしまして。 旅の安全を祈ってるわ……じゃあ、私は帰るね。 ……バイバイ、ルーク」 こちらに向かって一微笑みし、続けて向こうへも二笑み。 「リック、リスベル! バイバイ!」 呼ばれた2匹はその声に振り返った。 「フィンさん!?」 寝そべっていたリックは飛び起きた。 「……」 フィンはニコリと微笑んだ。 ザバーーーン 「あれ?」 ルークが振り返ると、フィンはいなくなっていた。 「フィンさんっ! フィンさんっ!」 リックがこちらへ向かって走ってきた。 リスベルも駆けてくる。 「フィンさんもういなくなっちゃったよ」 ルークがやって来た2匹にそう言うと、 「何か、パッと手を放して下に落ちていったぞ!」 とリックは叫び、船の縁ギリギリに体を寄せた。 ルークとリスベルも真似て縁に体を寄せる。 「あ! フィンさんです!」 リスベルがそう叫び、海の左の方を指さした。 リックは大声で叫んだ。 「フィンさーーーん! さようならーーーっ!」 「……」 フィンは振り返った。 そして、ルーク達に向け、大きく手を振った。 「さようならーーーっ!」 ルーク達もフィンに大きく手を振った。 勢い良く、フィンは海の中へと姿を消す……。 そうしてまた海面から姿を現したフィンを見て、 「わあっ」 リック、それにルークにリスベルも思わず歓喜の声を上げた。 飛び跳ねるように舞い上がり、華麗に海の上を舞う。 まるでその時間、時が止まったかのようで―― 水飛沫を上げ、フィンの姿は、朝の光に美しく輝いた。 神秘的にさえ思えるその姿に、ルークは思わず息を呑む。 「……フィンさんって」 ルークがそう言い続けようとしたところを、 「そうだ……我々猫を陸の民とするならば、フィンは海の民、マーメイドさ」 とロブスターがぼそりと言った。 「フィンさん、やっぱりただ者のじゃあなかったんだな。 あぁ、尾ひれがあるなんて素敵だぁ」 リックは口を不恰好に開け、目をとろんとさせている。 「ルーク……リックは素直に、フィンさんに見取れているのでしょうか」 リスベルには、リックがそんな風に見えていたようだ。 「遠い昔、陸の民同様に海の民も多くいたそうだ。 だがその昔、彼らは陸の民の侵略によって存在を脅かされた。 彼らは今も、過去の出来事を忘れてはいない――猫と違って、彼らは長寿だという理由もある。 ……フィンのことを、あまり他言するんじゃないぞ。 彼女は静かに陸で暮らすことを好んでいる」 そんなロブスターの言葉には、何か重いものがある気がした。 忘れられていく史実が世の中にはたくさんあるんだって、そう言えばアモンに教えてもらった事があったかな――もしそうだったら、どうしてフィンさんは優しく接してくれたんだろう。 「……」 ふと物思いに耽っていたルークの肩に手が置かれる。 「フィンの優しさに何か不満か?」 ロブスターが見下ろしている。 ルークは首を横に振った。 「……私もだ」 そう言って、正面を向いたロブスターの横顔が、いつもと変わらないのに何か違って見えた。 だんだんと遠ざかっていくフィンが、まだ手を振りつづけているのが見える。 最後に、フィンが舞って水飛沫を舞い上げたその場所には、小さな虹ができていた。 |
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