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六頭竜ティアマットとの戦いです

quartz

*第五話・ 続・赤眼の猫3*






「このままでは、ティアマットは街へ向かってしまう」
 ロブスターの言葉を、リスベルが紡いだ。
「どうにか…しなければいけません」
 そう言ったリスベルは、右手を胸の前に突き出し――口をもごもごと動かすと、声を上げた。
「レイノゥス(貫く氷)!」

 リスベルの右手から、淡い青をした竜が幾匹も飛び出る。
 それらはティアマットの周囲を取り囲んだ。
 かと思うと、淡い竜たちは身体を強張らせ、氷柱のようになり、次々とティアマットへ突き向かった。

「グルルルル」

 尖った氷の柱が刺さり、ティアマットはうめき声を上げた。
 そうして、氷が刺さったところを震わせ、ガチガチと歯を鳴らす。
 6つの口を威嚇するように開くと、ティアマットは首を沈め、襲いにかかってきた。
 
 不意にルーク達は何かに吸い込まれそうになる。
「来るぞ!」
 目の前に赤黒いものが見えた――それらは急速に近づいてくる――ティアマットの大口が、迫ってきた。
 リスベルにもたれかかっていたルークは、ハッとして身体を奮い立たせた。
 それと同時、ロブスターはルークの襟首、そしてリスベルを抱えた。

 ドドンという音がし、風圧が服をはためかせた。
「大丈夫か」
 ロブスターから襟首を離され、ルークは無言で頷いた。
 ティアマットは地に埋めた顔から、爛々とした赤眼をこちらへ向けている。

 
「キャウゥウウ」

 頭上でけたたましい叫び声が聞こえた。
 月明かりに照らされた、頭のないティアマットの首が見える。
「俺の矢、命中!」
 駆け出していなくなっていたリックの声が、前方で聞こえた。
 ……ティアマットの全ての首が、連鎖反応のように叫び声を上げ始めた。
「首の痛みが全てに伝わってるんだ」
 闇に浮かぶ赤い眼が、苦痛に歪んでいた。


「グウウウゥゥゥ」

 悲痛の声は、低い唸り声に変わった。
 残された5つの首は高々と上げられ、猫たちを見下ろしている。
 そして、一つの頭が急に下ろされた――それはリックへと向けられていた。
 ティアマットは、一番近くにいたリックを狙い撃ちにし始めたのだ。
「や、やや」
 リックは目を大きく見開くと、思い出したように慌てて逃げ出した。

 リックは時折、後ろへ吸い込まれそうになった。
 耳には、ガチンガチンと獲物を噛み損ねたティアマットの鈍い歯音が何度も聞こえた。
 ……ギザギザした鋭い歯が、リックのすぐ後ろに迫っていた。

「グアウゥウ」

 リックの背中で唸り声がしたかと思うと、

 ビリッビリビリッ

 嫌な音がした。
 シッポに何か嫌な感触が――チラリと振り返ったリックは、自分のシッポが、ティアマットの歯と歯の間からスルリと抜け出たのを見た。
「あっぶねぇ……」
 リックは身震いを一つすると、耳を平伏させた。

 一難を乗り越えたリックは、全速力で走りながら、
「Tシャツ破けちまった」
 と顔を引きつらせ小さく言った。
 ――ティアマットよりも、これを見たロブスターの方が恐そうだぜ。


 ティアマットの攻撃から逃れ、リックは咳き込んでルーク達の前に現れた。
「し、死ぬかと思った……」
 座り込みはしなかったが、リックは膝に両手を載せて、肩を落としてゼエゼエ言っていた。
 その直後、ドシンドシンと大地に振動が走った。
「ティアマットがこっちに歩き始めてる」
 巨体を揺らしながら、ティアマットが近づいていた。
「私一匹で、どうにかできるでしょうか」
 リスベルがポツリと言った。
「私がいる」
 その声に、ルークは顔を上げた。
 リスベルはハッとしながらも、
「ロブスターさん」
 と、口に少し笑みをつくった。

「少し準備が必要だ、時間稼ぎを頼む」
 そう言ったロブスターに、リスベルは無言で頷いた。
 こうしている間にも、地響きを立て、ティアマットはこちらに近づいてきていた――ティアマットの歩みが遅いことが、唯一の救いだ。
 リスベルはティアマットの方へ一歩足を踏み出すと、胸の前に出した手を握った。
 早口に何かブツブツ言うリスベルの周りに、突如風の渦が現れる。
 ……リスベルのローブが静かにはためき始めた。
 通常の風が起こすようなものとは違う、何かを漂わせるはためきがリスベルを包んでいる。
 リスベルが息をスーッと吸い込んだのと同時、はためきが止まった。
 ローブは不自然に広がったまま浮いている――そしてリスベルは唱えた。
「フクウェン(風の轟き)!」

 突如ゴオォと音をたて、ルーク達の前に猛風が巻き起こった。
 リスベルの右手から飛び出た淡い青をした竜が、その風を身体に引き込み、ティアマットへ突き向かう。
 忽(たちま)ち風は、ティアマットを包み込み、立ち往生させた。
 
 ルークは、隣に立っていたロブスターにただならぬ気配を感じ、振り返った。
「……」
 ロブスターは毛並みを逆立たせていた。
 その身体を、柔く紫風が包んでいる。
 眼帯のないロブスターの左眼は真っ赤だ。
 ロブスターの体つきが、みるみる変化する――全身の筋が浮き出、両の爪が長く鋭く伸びていく。
 青い右目が、赤々とした吸血鬼の眼に変わった。
 そして――ルークが一つ瞬きをした後には、ロブスターはすっかり別猫と化していた。

「な、何だ」
 リックが肩を落としたまま、ポカンとロブスターを見て言った。
 突然の出来事にルークもキョトンとしていた。
「私は変化できる」
 口端に長い牙を見せ、ロブスターは不適に笑んだ。
「……」
 恐ろしく変貌した黒猫の姿に、2匹の子猫は固まった。

「そろそろ、限界です」
 リスベルが肩越しに、こちらへ訴えてきた。
 それを見、ロブスターはマントを翻すと、サッと姿を消した。
「……は、はえぇ」
 リックとルークは、目をパチクリさせた。


「グワウゥウゥウゥ!」

 薄れていたリスベルの魔法を食い破るようにして、ティアマットは鳴き声を上げた。
 残った5つの首の1つが圧(へ)し折れている。
 一番右端に見える首は、捩(ねじ)れたままこちらを睨めつけていた。

「グワウウゥゥゥ!」

 再び叫び声を上げると、ティアマットは大地を揺るがし始めた。
 ロブスターは、そんなティアマットの正面に、悠々と立っていた。
 ……真っ赤な目を見開き、ロブスターはティアマットを一睨みする。
 ティアマットが、ほんの一瞬怯んだ。
 その瞬間、ロブスターは動いた。

 ティアマットは大口を開け、ロブスターに食いつこうとした。
 しかし、それらは容易くかわされる。
 間髪入れず、鋭い歯の並んだ大口はロブスターへ繰り出された。
 ロブスターは、食らいつき損ね沈んでいくその頭を踏み台にし、上へ上と駆け上がった。

「グルゥウウ……グルゥウゥ」

 唸り声を上げ、ティアマットは、己の身体に爪を立てしがみつく黒猫を睨めつけた。
 そうして、イライラと首を揺らしたかと思うと、再びロブスターへ食らいつきにかかった。
 
 ロブスターは、攻撃がギリギリに迫ってくるまで、逃れようとしなかった。
 すぐ側にまで、確実にこの場へ食らいついてくることを察すると、サッと移動して避ける。
 獲物を仕留め損ねたティアマットの大口は、剥き出した鋭い歯で、己の身体に噛みつく。
 ティアマットの身体は、己の歯によって深い傷を負った。
 けれど、そこから流血しながらも、ティアマットはロブスターを食らおうと次の頭を奮い立たせた。


 ティアマットは身体の上を動き回るロブスターを執拗に追った。
 それに対して、ロブスターの方も、ティアマットに己の歯で己を傷つけさせるということ繰り返した。
 

 何度も己の身体に噛み付いたティアマットは、傷口が増え、悲痛の声を上げだした。
 ……黒色の身体から流れ落ちた血は、地上に池をつくっている。
 そのうち、ティアマットはロブスターを食らうことを止め、身体中の痛みに奇声を上げ始めた。
 硬い鱗で覆われた皮膚は、今や傍から見てもわかるほどに痛々しく、傷だらけだ。
 ロブスターはティアマットの頭の一つに立つと、一つ深呼吸した。

 突如、何かを待つように微動だにしないロブスターの身体が、紫煙に包まれ始めた。
 すっぽりとロブスターの姿を隠した紫煙は、霧のようになって、ティアマットをも包み込む。

「クワウ……キャウウウゥゥゥ」

 しばらくの間、ティアマットの奇声は聞こえていたが、次第にそれは聞こえなくなった。
 そして、音もなく、紫霧の奥からロブスターが現れた――霧が一掃された時には、ティアマットの姿はどこにもなかった。
 辺りには、灰が積もった大きな赤い溜まりが幾つか残っていただけだった。


 気づけばルーク達の正面に現れていたロブスターは、みるみる、元の姿へと戻っていった。
 毛並みも、顔つきも、全て元に――その姿はロブスターに間違いなかった。
 その光景に、呆気に取られている様子のリックが言う。
「ロ、ロブスターだよな」
「この通り、私だ」
 そう答えたロブスターの胸元が、キラリと光る。
 乱れた服の間から見える左胸に、何か石のようなものが見えた。
「竜石」
 リスベルがポツリと呟いた。
「……ロブスター、おめぇ、竜石使いだったんだな」
 リックの言葉に、
「あぁ、そうだ」
 とロブスターは言い、リスベルへと視線を流した。

「ロブスターさん。
初めから何か感じるものがありましたが……竜石使い、だったんですね」
 リスベルはそう言うと、顔を引き締め、重々しい口調で言った。
「ロブスターさんに、話すべき事があります」
 ルークとリックは黙ってリスベルを見つめた。

「私は、竜石使いを探す旅をしているんです。
黒い竜を倒すためには、竜石使いの力が必要なんです。
ロブスターさん、それで――」
 リスベルが言って続けようとしたのを、
「リスベル」
 ロブスターは遮った。
 3匹は少し驚いてロブスターを見る。
 ロブスターはそれぞれの顔を見、話し始めた。
「黒い竜が現れた事、それにお前達2匹が竜石使いである事も察していた。
そしていつか、そんな話を聞かされるのではないかと思っていた」
 そう言うと、ロブスターは3匹に背を向けた。
「……すまないが、その事は後にしてくれ。
今の気分ではお前達の期待に添えん」

「えっ…」
 ルークも、それに他の2匹も、ロブスターの思わぬ言葉に驚いた。
 けれど一緒に旅に出るかどうかは、ロブスターが決めることだ。
 リックも同じことを思っていたのか、ルークの顔を見て無言で頷いた。
「はい……分かりました」
 リスベルはそう言って、話をやめた。


「フィンさん家に戻ろうか」
 ルークがそう言ってすぐだった。
「いや、ちょっと待ってくれ」
 とリックが言った。
 振り返ると、リックが落ち着かない様子でロブスターを見つめていた。
「何だ」
 ロブスターもリックを見据える。
「いや、やっぱり何でもない」
 そう言ったリックに、ロブスターは少し額にシワを作ると、背を向け歩き始めた。

 ルークも歩き出そうとした時、リックが背中をつんつんしてきた。
「ん? どうしたのリック」
「……」
 リックは何も言わずに、ただ視線を自分の背中へと向ける。
 ルークもそれに従って、そちらに視線を移した。

 リックの服、言えば"ロブスターの赤いTシャツ"の後ろ半分がビリビリに破けていた。
 食いちぎられたのか、大きく破れている。
 生地のほとんどがなくなっているので、補修するよりも新しいTシャツを購入した方が良さそうだ。

 リックは小さく言った。
「ソースをつけたくらいなら、そう、程度は知れてるぜ。
……でもよ、ビリビリってのは……やばいよな」
「ティアマットにやられたの?」
「ああ、思いっきり」
 リックは苦笑し、言って続ける。
「ロブスターの野郎はルークに甘いしさ、この俺の功労に免じて許してくれって言ってくれないか」
 ルークが有無を言う前に、ロブスターの声がした。
「私のTシャツを破った代償は高いぞ。
……それと一つ言っておく、私は耳がいいんでな。
聞かれたくなければ、街一つ向こうへ行く必要がある」

「全部聞こえてたっ!?」
 リックはそうヒソヒソ声で叫び、顔を引きつらせた。
「…どうかしたんですか?」
 何も聞こえてなかったリスベルは、やりとりに不思議そうな顔をしていた。





 フィンの家が見えてきた。
「ルーク! リック! ロブスターさん先に行ってしまいましたよ。
私たちも早くフィンさん家に帰りましょっ」
 リスベルが数十歩先で呼んでいる。
「うん」
 ルークはそう返事をして、渋顔のリックを励ますように微笑むと、歩き出した。





 頭上に広がる空は、仄(ほの)かに明るんでいた。
 ――もうすぐ夜明けだ。
 ルーク達よりも先に、戸口の前に着いたロブスターは、
「……」
 ふと淡い夜空を見上げた。

 ――

 うっすらとした星の1つが、大きく輝き、流れて消えていった。
「流れ星、か……」
 ロブスターはぼそりとそう言って、少しの間、空を見つめたままだった。
 そして、後ろを歩いていた3匹の足音が近づいてくるのに気づくと、

 ガチャッ……キュウウゥ

 家の中へと入っていった。


 それから幾分も経たず、ルーク達もフィンの家に着いた。
「俺、ちょっとジョギングしてくるよ」
 そう言って逃げだそうとしたリックの腕を、リスベルが掴む。
「残念ですね。
私はルークと、フィンさんの出来たてのお料理を頂きましょうか。
きっと美味しくてリックの分まで食べちゃいますよ。
……ジョギング行ってらっしゃい、リック」
 惜しそうにリスベルはリックから手を離す。
「フィンさんの、料理」
 走り出す体制をしていたリックは、胸の前と後ろへ振り上げていた腕を下ろし、2匹の方を肩越しに振り返る。
「リック、ロブスターだってちゃんと謝れば許してくれるよ」
 ルークのその言葉に、
「でも、あいつの事だぜ。
……破った代償、絶対きつそうだぞ」
 リックは、ロブスターが恐ろしくてたまらないっと言わんばかりの顔をした。
「大丈夫、謝れば誰だって、少しは優しくなってくれる。
何かしなきゃならなかったら…俺も手伝うよ」
 そう言って、ルークが優しく微笑むと、
「ルーク、おめぇ……」
 リックはそう言いながら、ルークに迫ってきた。
 その目にただならぬものを感じ、ルークは思わず身を引いたが、リックはなおも迫ってくる。
 そしてかなり至近距離まで近づいてきたかと思うと、
「何で、何でおめぇはそんなに優しいんだぁあぁあぁ」
 叫びながらルークに抱きついてきた。

「リ、リック?」
 ルークはポカンとして、同じくポカンとするリスベルと顔を見合わせた。

「俺は、おめぇがそんな良いやつだって思わなかった。
知り合って日も浅いしよ、それに俺はルークに良くした……覚えはあるけどよ。
まさかお前がこんなに良い猫だなんて、知らなかったぜっ、うぅ」
 リックは言いながら、次第に涙目になっていった。
「……リック」
 ルークはそう言って、優しくリックを自分から離した。
「俺も、リックみたいにそう言ってくれる猫に会ったの初めてだよ。
……これからも、よろしくね」
 ルークは右手を差し出した。
「あぁ、俺も……よろしくな」
 リックは目元を拭い、右手を出した――2匹はギュッと、握手を交わした。

「私も入れてくださいよぉ」
 リスベルが2匹の握手の上に手を置いた。
「仲良くしましょうね」
 そう言ったリスベルに、ルークはコクリと頷いた。

「ルークはわかるけどよ、何でリスベルも入って来るんだよ。
男同士の契りなんだぞ」
 リックのその言葉に、リスベルは顔をキリッとさせた。
「でしたら私も男です」
「……俺たちに合わせて、付け足しただけって感じだな」
 リックがルークにそう言う。
「リックの言う通りです」
「肯定してどうするんだよ」
 呆れ顔をしたリックの背を押しながら、
「いいじゃないですかぁ」
 とリスベルはニコニコした。
 
 入り口の扉を開け、リスベルに押されるまま家の中へ入ろうとしたリックは、チラリとルークの方を見た。
 そんなリックを励ますように、ルークは頷いた。





−フィンの家−

 キュウウ……ガッチャン

 3匹が家の中へと入ると、
「お帰りなさい」
 フィンがそう言って出迎えてくれた。
「ただいまフィンさん」
 ルーク達がそう言うと、
「朝食がもうすぐできるわ。
さっ、椅子に座って待ってて、ミルク入りのココアを入れてあげるわ」
 とフィンは言い、ニコリと微笑んだ。

 3匹はテーブルについた。
 リックは落ち着かない様子でロブスターの正面に座った。
「……」
 ロブスターは、赤と黄色のプチトマトを食べながら、"フォーハンズ新聞"を読んでいた。
 リックはそんなロブスターをじっと見つめ、ルークは隣でリックの様子をチラリと見ていた。

「はい、ココアよ。
ちょっと熱いから、気をつけて飲んでね」
 フィンはそう言いながら、ルーク、リスベル、そしてリックの前にミルク入りのココアを置いた。
 コップの中のココアは、注がれたミルクでハート型の渦ができていた。
 フゥフゥと冷ましながら、ルークは一口ココアを飲んだ。

 もう一つプチトマトを口に入れようとしたロブスターは――自分を見つめるリックに視線を合わせ、
「……何だ」
 と言った。
「あ…あ……ロ、ロブスター」
 リックは動揺して目が泳いでいる。
「頑張って」
 ルークは小さくそう言った。
 リックは頷くと、たどたどしく話し始めた。
「ロブスターお気に入りのTシャツ……」
 そう言いながら、リックは来ていたTシャツを脱ぐ――そして続けて、
「こんな風にしちゃって、ごめん」
 リックはテーブルにゴツンと頭をつけた。

「……」
 ルークとリスベル、それに、驚いた様子のフィンは、黙ってロブスターの返答を待った。


 しばらくの沈黙の後、ロブスターは口を開いた。
「物はいずれ、破れ壊れ去る運命にある。
仕方のない事だ……許してやろう」
 その言葉に、みんな少し笑みをみせた。
 でもすぐ、ロブスターは淡々とした口調で言って続けた。
「だが、今から言う事を聞いてくれたらの話だ」
「条件出すのかよ!」
 思わずそう叫んだリックに、ロブスターは少し笑んだように見えた。
 リック、それにルーク達も、再び顔を緊張させた。

 ロブスターは言った。
「もっと辺りが明るくなってからでいい。
通りへ行って、"トマトジュースの素"をたくさん買ってきてくれ」
「トマトジュースの素?」
 リック、それにルークも首を傾げた。
「遠出をするには、なくてはならん。
食事は大切だ……特に、危険な旅に出るにはな。
それくらい気の利いたことをやってもらわんとな」
 ロブスターのその言葉には、何か含みを感じた。
 それをすぐさま感知したのはリスベルだった。
「ロブスターさんっ、それって……私たちと旅に出てくれるって事ですか!?」
「……あぁ」
 ロブスターはそう答え、再び新聞に視線を戻し、プチトマトを食べ出した。

「ルークっ」
 リスベルがとても嬉しそうに微笑んだ。
「……よかった」
 ルークも微笑んだ。

 部屋の空気は一気に和やかになった。
 そんな中、一匹納得のいかない様子のリックが、プチトマトに手を伸ばしていたロブスターに言う。
「ついさっき外で"今の気分ではお前達の期待に添えん"って言ったばかりなのに、気の代わりが随分と早いな」
「いいや、まだ気分は変わっていない……今の気分では期待に添えん。
トマトジュースの素を買ってきてもらわないとな」
 プチトマトを頬張りながらロブスターはそう答える。
 朝食作りの音がする向こうから、
「ロブスターは気まぐれ屋なのよ、リック」
 フィンがそう言った。

「買って来るのか、来ないのか」
 ロブスターがリックをちらりと見た。
 その様子を、ルークとリスベルはそっと窺っていた。
 リックは、そんな2匹にわかってるよといった顔を向け、ロブスターに返事をした。
「リック・ゴードン、買いに行かせて頂きます」
「……俺も手伝うからね、リック」
 ルークはそう言って、ポンポンとリックの肩を叩いた。


「朝食を運んでもいいかしら?」
 フィンの声に、リックが一番に反応した。
「運ぶの手伝います〜っ!」
 ルークもリックの後に続いて、朝食運びを始めた。






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