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なんとなく、気恥ずかしい場面です(何故?)

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*第四話・追憶の猫2*






 再び部屋に戻ってきた時には、サリアは、年老いところどころ毛の薄い茶と白の混じった毛並みの猫と一緒だった。
「お爺さま」
 サリアはそう言ってその年老いた猫を紹介した。
 老いた猫はキョトンとした顔で、
「……見ない顔だね、サリア、この方は?」
 と言った。

「吸血鬼のロブスター」
 サリアがそう言うと、
「……吸血鬼?」
 老いた猫はロブスターをしげしげと眺めだした。
「こんにちは」
 ロブスターはよそよそしく頭を下げた。

「一体、家に来てもらって何をしておるのだ?」
 老いた猫がそう言うと、サリアは、
「私が作った料理を食べてもらっていたの」
 とニコリとした。

「そうか……はっ! な、なんと!?」
 そう言ったかと思うと、老いた猫は急に表情を変え、顔を真っ青にした。
「りょ、料理!?
それは、それはサリアの作った料理なのか!?」
「うん……お爺さま、私さっき言ったわ」
 老いた猫はサッとロブスターの方を向き、何だか張りつめた表情で見つめてきた。
「??」
 ロブスターはポカンとした様子で老いた猫を見つめた。

「お爺さまもどう?
最近、私の作ったキノコスープ食べてないでしょ?
ロブスターはおいしそうに食べてくれて……それに何度もお代わりしてくれた」
 サリアのその声が聞こえていたのかいないのか、
「昼に食べた"串とかげ"がまだピクついておるわ。
そうそうサリア、私はしばらく家を留守にするかもしれんのぉ」
 と言い、去ろうとして、
「……あんたは正しく吸血鬼のようじゃ」
 とロブスターにぼそりと言い、肩を叩くと、老いた猫は何だか逃げるように部屋を出ていってしまった。


「"串とかげ"は3日前のお昼に食べたわ。
お爺さまったら、ぼけてしまったのかしら」
 サリアは何やら深刻そうな顔でそう言った。
 その様子をロブスターは、
「……」
 スプーンをくわえて見ていた。


「あっ、気にしないで。
ロブスター、まだお代わりがあるわ……食べて食べて」
 サリアにそう勧められるまま、少し戸惑いつつも、
「ハグハムハグッ」
 空腹には耐えられず、ロブスターは具だくさんのスープをガツガツと食べ出した。





「……ふ」
 ロブスターはすっかりスープを食べ尽くした。
「すごいわ、1匹で全部平らげてしまったなんて」
 そう言いながら、サリアはロブスターに"氷入れすぎのレッドティー"を出した。
 ロブスターは差し出されたレッドティーというか、入れすぎの氷を口に含んだ。
 そうして、後片づけ、洗い物のガシャガシャという音を聞いていた。


「……」
 ロブスターが、そろそろお暇するかな、なんて思い、立ち上がろうとした時だった。
 サリアが片づけを終え、こちらへやって来た。
「ロブスター、もうどこかへ行くの?」
「……さぁな」
 ロブスターの曖昧な答えに、サリアは何だか軽く頷き言う。
「そう、なら私につき合って。
あなたみたいな素敵な猫、"ビルクス様"に紹介したいわ。
だってスープを全て食べてくれたんだもん」
 微笑んだサリアの顔を見て、ロブスターは飯も食わせてもらったしな、と思い頷いた。
 頷いたロブスターを見やり、サリアは何やら語り出す。
「私ね、ビルクス様にもスープ差し上げようと思ったことがあるの。
でもね、

『サリア、あなたのスープは頂けません。
私はサリアのスープをすするに値しない。
いくら私が慕われる猫だとしても、それはその1つに過ぎない。
それの数は限りなく、慕う慕われる関係も。
サリアに満足されるように、私はあなたのスープをすすれない。
そのような猫がいれば、是非ともお会いしたいものだ』

って仰られて。
私、納得しちゃった、それにビルクス様がそんなに思ってくれるなんて、って」
「……」
 ロブスターはなぜか、そのビルクスという猫が言った言葉に"いくつか引っ掛かるもの"を感じた。
 大それたように語っているが、そうではない気がする。
 それが何かを遠まわしに物語っているようにさえ聞こえたが……大した事でもないか、と、考えないことにした。


「行きましょ」
 サリアに促されるまま、ロブスターは家を出た。





 家を出た2匹。
 サリアは足取りよく言った。
「ビルクス様は、私がいつも通っている所の先生みたいな猫かな……あそこは素敵。
私の大好きな、綺麗なステンドクラスがあるの。
ロブスターに見せてあげるわっ」


 向かう途中、数匹の猫たちに出会(でくわ)した。
 出会した猫たちは揃って、
「よぉサリア……今日はご機嫌だな」
 など、サリアがいつもよりも浮かれた、嬉しそうな様子に触れ、サリアは、
「そうかな? ……あ、こっちは吸血鬼のロブスター。
お腹を空かせててね、私、スープを作って差し上げたの」
 とニコリと微笑んで言っていた。

「サリアの……料理!?」
「キノコのスープを!?」
 そんな事を言う猫がほとんどだったが、聞いた途端、
「……」
 ヒゲをピンと張り、固まってそれ以上喋らなくなる猫もいた。


「……」
 ロブスターはそんな街猫たちの様子に、少しずつ、あまり知りたくないような事がわかってきた気がした。
 でも、あえてサリアには尋ねずにおこう。
 そんな事を思っているうちに、前を歩いていたサリアは……足を、止めた。

「ここっ。
ここが、私がいつも通っている……教会よ」
「……」
 目の前には、大きな教会。
 ロブスターは一度目にしていた――街を探っていた時だ。
 でもまさかその時は、ここへ立ち寄るなど思ってはいなかった。

「私はほとんど毎日のように、この教会へ勉強をしに来ているの。
"神官"になろうと思って。
神官っていうのは、世界を見守る白い竜イージスへ、猫たちの願いや思いを、祈りを して伝えて……そのための必要な力をイージスからもらい、叶えるって事ができる 素敵な職業。
もちろん、どんな猫であろうとイージスは聴いて下さる。
でも、神官になればより確実に、そういう事ができるんだって」
 サリアの話し声は、あまりロブスターの耳に入っていなかった。
 けれども気づかないサリアは、微笑むと、教会の大きな扉へと近づいていった。

「……」
 ロブスターは動かなかった。
「……ロブスター?」
 サリアはそれに気づき、ロブスターの側へ戻ってきた。

「どうかした?」
 不思議そうに見つめるサリアに、ロブスターは、
「俺は吸血鬼だ」
 とぼそり。
 それを聞くなりサリアは、
「教会に入るのが初めてで戸惑ってるんだ……大丈夫、ロブスターならっ。
教会が寄せ付けないのは"悪の気"だけ。
だから、大丈夫よ」
 と言い、言ったかと思うと、
「さ、行こうっ」
 とロブスターの腕を引っ張り歩きだした。

「わ、わからないのか! だから……だから俺は心配してるんだっ」
 ロブスターはそう叫んだが、サリアの引っ張る力は予想以上に強かった。
「お願いだから……んん、入ってっ。
ロブスターっ、入りなさい」
 サリアはロブスターをグイグイ引っ張りながら、一度キョロキョロ辺りを見回すと、大きな教会の扉を足で開けた――





−教会−

「んん……」
 ロブスターは教会へ、半ば引きずり込まれた状態だった。
 中へ入った時には辺りを恐る恐る順々に見回し、奥の中央に堂々と立つ、白い竜の巻きついた十字架に、ゆっくりと顔を……向けた。
「……」
 ロブスターは自分の身に何も変わりのない事に安心した。
 サリアは振り返り、
「ね、大丈夫でしょ」
 と言い、ニコリとして奥へと駆け出していった。
 
 けれども、入り口で立ち尽くしたままのロブスターに気づくと、
「ロブスターも早く、こっち」
 と、サリアはロブスターを引っ張った。
「……」
 ロブスターは、されるがままだった。


 サリアはロブスターを中央まで引っ張っていった。
 中央にたどり着くと、
「これっ」
 と言い、指を天上へ向けた。 
 ロブスターは、不機嫌な顔でサリアの指さす天上を見上げた。


 そこにはとてつもなく大きなステンドグラスがあった。
 色とりどりの色。
 よく見れば、それは何か絵のようになっている。
 巨木……それに実がなっているかのように、小さな絵が描かれていた。

 サリアは上を見上げたまま言った。
「教会のステンドグラスは大好き……
綺麗なだけじゃないのよ。
一つ一つに、物語が含まれてるんだから。
中でも特に、この大きいのは特別なステンドグラスなの。
これはね、光の具合で色が変化するの。
ただ、色が濃くなったり薄くなったりじゃなくて。
ここからは見えないけど、奥に数枚、色を変化させるためのステンドグラスが隠されてる。
それが、太陽の位置加減によって色が強くなったりして……昼間は木が緑色に見えるけど、朝早く来るとピンク色に見えるのよ」


 2匹は少しの間、そのステンドグラスを見上げていた。
 しばらくして、サリアは顔を下げた。
「このステンドグラスも見せたかったけど、ほんとにロブスターに見せたかったのは、あっちにあるの」

 サリアはどんどん奥へと進んでいった。
「……」
 ロブスターも黙ってその後を進んだ。


 サリアは教会の壁越しに歩いていた。
 天上に近い壁の窓にも、綺麗なステンドグラスが並んでいる。
 日の光がそこから差し込み、2匹の歩く足もとに鮮やかな影を作っていた。


「これっ。
ロブスター、これ見て」
 サリアはそう言って、一番奥の壁の前で立ち止まった。
 ロブスターは微笑むサリアから壁へと、ゆっくり顔を向けた。

 そこには一枚のステンドグラス。
 それはほとんど、壁のようにそこにあった。
 青い色が多く目立つステンドグラスだ。
 その青色は何か、猫の姿を象っていた。

「このステンドグラスには名前がついてる。
"その猫は森からやって来た"って。
私、ロブスターに初めて会った時、このステンドグラスを思い出した。
……このステンドグラスの場合、青色は黒を表してるんだって。
何か、似てない? ロブスターは森から現れたし、それにこの猫と同じ毛色でしょ。
いつ見ても、この猫素敵だわ。
私、このステンドグラスが一番好き」
 サリアは、ステンドグラスを見つめるロブスターに微笑んだ。

「……」
 ロブスターは何か、このステンドグラスにとてつもなく惹かれた。
 初めて見たもの……でも、何か懐かしく優しい気分に――
 描かれる猫に惹かれているのだろうか。
 しばらくの間、ロブスターはステンドグラスに描かれているその猫を、じっと見つめ続けていた。


「サリア・ベス」
 落ちついた声が後ろから聞こえた。
 その声に2匹は、振り返る。
「ビルクス様」
 サリアがそう言って礼をすると、
「……今日は1匹ではないようだね、そちらのお方は?」
 とビルクスはロブスターの方を微笑ましい顔で見つめた。

「ロブスターさんです」
 サリアは今までに会った猫の中でも一番の丁寧さで、そうロブスターを紹介した。
 そして続けて、
「ビルクス様、私、ロブスターをビルクス様に是非とも会わせたかったの。
以前、ビルクス様は私のスープを飲まずに、言われましたよね?」
 と続けようとしたのを、ビルクスはそっと遮るような言い方で、
「スープ? そう言えば何か、言った……かな」
 と言った。
 何だかビルクスは少しとぼけた様子だ。

「言われましたっ。
だから私、ロブスターを連れてきたんです。
私の作ったキノコスープ、とてもおいしそうに食べてくれたロブスターを」
 サリアはロブスターをチラリと見やりながら、嬉しそうにそう言った。
「……」
 ビルクスはロブスターをじっと見つめた。
 そして、
「ほう、サリアのアノ料理を」
 と何か意味ありげな顔をした

「全て食べ尽くしてくれた。
とってもたくさん作ったのに、ロブスター一匹で全部っ。
こんな事ってなかったもの。
みんなお代わりすらしてくれなかったのに」
 サリアは何だか嬉しくってしょうがないようだった。

  ビルクスはそっとロブスターに言った。
「サリアの料理を、本当に食されたのか?」
  それにロブスターは、
「腹が減っていた」
  と答えた。
  ビルクスはロブスターの顔をじっと見つめ、
「サリアの料理食べ尽くした……猫とはおもえん業をやりなさったな」
  と言い、何だか慕うようにロブスターの肩を軽く叩いた。

「さすがビルクス様、鋭いわ。
ロブスターは猫じゃないわ、吸血鬼よ」
  サリアに話が聞こえていたようだ。
「……なんと」
  ビルクスはサリアからロブスターへ顔を移した。
「昼間だというのに、しかも教会に……吸血鬼が」
 ビルクスは抑揚のない声音で、特に驚いた様子もせず、ただ声だけ驚きを装ってそう言ったが、
「だが、私はあなたが吸血鬼だと信じてしまおう。
あの、サリアのキノコスープを」
 と言い続けようとしたが――その時サリアと思いっきり目が合った。

「純粋なサリアに、皆、困ったものだよ」
 ビルクスはそう小さく囁き、ロブスターから離れると言った。
「そうそうサリア。
彼に街を案内して差し上げてはどうだ。
今日の夕方は、西から東の空にかけて"夕流れ"を見る事ができると聞いた。
夕方頃に、小高い丘の方へ行くといい」
 ビルクスはそう言うと、一度だけロブスターの方をチラリと見やり微笑し、スタスタとその場を去っていった。

「街の案内か」
 サリアはそう言ったかと思うと、
「そうだね、せっかく訪れてもらった街だし。
ロブスターには、この街のいいところを見てもらわなきゃ」
 とロブスターの方を笑顔で振り向いた。





 2匹は教会を後にした。





 ロブスターはサリアに連れ回され――でなくって案内で、2匹は街のあちこちを巡った。
 サリアはロブスターを、教会にも飾られていた綺麗なステンドグラスを作るところや――染め物をし、それで衣服を編む猫に会わせたりもした。
「この衣服は、神官になれば着ることができるわ」
 サリアはそう言い、作り終え置かれていた"神官服"を指さした。

「ロブスターはこの街にいつまでいるの?
私の神官服姿、見て欲しいな」
 サリアが歩きながらそう言ったのを、ロブスターも歩きながら、
「俺の旅には時はない。
去る時は新たなことを求める時だ。
その場所にいる意味がある以上、そうは去ることもないだろう」
 と淡々とした口調で答えた。
  それを聞いたサリアは、
「うーん、難しい事を言ってるけど……
要は、まだこの街に居てくれるってことね」
  とロブスターの顔を嬉しそうに見た。

 ロブスターはそんなサリアをちょっと横目で見たが、
「……」
  さっきと変わらぬ様子で、歩き続けていた。





  街を回り終えた頃、2匹は街から茂みの細道を通って、小高い丘の方へと向かっていた。
 通りを抜け、辺りに建物がなくなって――見晴らしの良い、野原が広がる場所へと出た。
「いい街でしょ? この街」
 サリアはそう言いながら歩き、広い野原の一番良いところにあった緩やかな斜面に腰をおろした。
「ロブスター、あなたもここに座って。
ここから良い景色が眺められるわ」
  サリアがトントンと叩いた地面のところに、ロブスターもそっと腰掛けた。

 座ったロブスターの方を向き、サリアは、
「見て、あそこに大きな街が見えるでしょ?」
 と正面を指さした。
 ロブスターはその指の先を見た。


 2匹の目の前に広がる絶景。
 地平線の向こうにまで広がる大地……
 その大地には、生い茂る森、青々とした湖、そして華やかな街。
 サリアが指をさしていたのは、その華やかな街だった。


「私、よくこの場所に来るんだ。
大きな街が見えるでしょ……いつも、ここであの街を見ているの。
いつかあの街に行ってみたいな、って思いながら」
 そう言いながら街を見つめるサリアを、
「……」
 ロブスターは黙って見つめていた。

「あ、そう言えば」
 サリアはロブスターに振り返る。
「ロブスターは、何でここに来たの?」
「……」
 その質問に、どこか、ロブスターはためらった様子だった。
 それを見、サリアは何かを察したのか、
「いろんな場所、街……行った事ある?」
  と質問を変えて聞いた。
「……あぁ、いろんなところへ行った」
 ロブスターは遠くのほうを見つめながらそう答えた。
「そう……」
 サリアも、ロブスターと同じように、遠くのほうを見つめた。

 少し口をモゴモゴさせていたサリアは、さっきまでとは違う口調で言った。
「ねぇ、私も一緒に行ってもいいかな。
そのー、ロブスターの旅にさ」

「っ?」
 ロブスターは目を丸くしてサリアを見た。
「私、神官になったら街を出てみたいと思ってた。
違った土地に足を踏み入れて、いろんな経験も積みたいし。
知らないこともいっぱい知りたい。
……もちろん、神官としても。
神官を必要とする猫たちを、救う事だってしたいと思う」
 そう言うサリアの真剣な眼差しから目を逸らし、
「外は危険な世界だ。
この街は平穏で静か、だが外は違う」
 ときっぱりとした口調でロブスターは言った。

「わかってる……でも、外の世界に行ってみたい。
神官になれば、私だって身を守る術を備えておくことができるようになるわ。
……ロブスターはまだここに居てくれるでしょ?
もうすぐ私は、神官になれる。
そしたら、ロブスターの足でまといになんてならないから。
だから、ね、いいでしょ? 神官になったら、私を一緒に連れて行って」
 サリアはそう言って、ロブスターの返事を待った。

 ……

 何も返って来なかった。
「ロブスター?」
 サリアは振り向き、ロブスターの様子を見た。
「……」
 ロブスターは静かで、死んだようにピクリとも動かない。
「ね、ロブスターっ……聞いてる?」
 サリアはロブスターの体を少し揺すってみた。

 ……

 でもロブスターは静かなままだった。
「どこか、具合でも悪いの?」
 何だか不安になってきたサリアが、ロブスターの顔を覗き込もうとした時だった。
 ロブスターが急に、サリアの膝に倒れてきた。
「!?」
 突然のことに、驚きで声を上げるところだった。
 そんなサリアの耳に、何か……不自然な風音のようなものが聞こえてきた。








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