三匹はいざタルトの街へ・・・昼飯を食いに(笑)
quartz
*第二話・ 潮風の吹く街タルト・ルクプ 1*
「わぁーっ、あれはもしかして海というものでは?」 リスベルは、向こうの方に見える、波打つ青くて広いものを指さすと、 「でも私の読んだ書物には、海のある街には港がつきものだ、と書かれてありましたが。 ……どこにあるのでしょう、見あたりませんね」 と言いながら辺りを見回し、残念そうにした。 その様子を見てルークは、 「この近くは、港を開くには不利だったんだ。 海岸が特別で船が入りづらい事もそうだけど、この街よりもう少し向こうへ行くとある"スフレ・クトン"って街、そこが港を開くには打ってつけの場所だったんだよ。 この街、タルト・ルクプは無理な港をつくるよりも、さっき通ってきた古岩の森で狩りなんかして生活する方が良かったってわけ。 昔から、スフレ(スフレ・クトンの略名)とタルト(タルト・ルクプの略名)は、お互いに捕れたものを物々交換したりしてたらしいよ……アモンから聞いた事なんだけどね」 そう言って、ふとルークは、思いついた! というような顔をした。 「そうだリスベル、この街の次はスフレの街に行こうよ。 港の近くだと、いい情報なんか聞けそうだしさ」 海を見つめていたリスベルは振り返ると、 「そうですね、そうしましょう」 と頷いた。 二匹がそんな風にのんびりと歩いていると、十歩先を歩いていたリックが急に後ろを振り返った。 「ルーク! リスベル! ふたりとも早く早くっ。 この街一番! の店に行くんだぜっ!」 リックは二匹に背を向けると、勢いよく、転がるように駆けだした。 建物がひしめきあう、タルトの街へ続く坂を下りていく。 「……リックはよほどお腹がペコペコなんですね」 リスベルは可笑しそうにふふと笑う。 「ほんと……もう、あんなに小さく見える。 急がないと見失っちゃうよ、リスベル急ごっ」 二匹は急ぎ足でリックの後を追った。 −タルト・ルクプの街− 坂を下り終え、ルークとリスベルは、いろんな店や猫たちの行き交う場所へと着いた。 元気そうな子猫たちが、わあぁと騒ぎながら側を横切っていく。 昼間だったせいもあり、辺りは買い物をする猫たちでいっぱいだ。 リスベルは猫たちが買い求める品々やその様子を、物珍しそうに見ていた。 「小さな街だけど、タルトはすごく活気ある街なんだ」 ルークがそう言って振り向くと、リスベルは果物屋さんに商品を勧められているところだった。 「リスベル何してるの。リックが行っちゃうよ」 「あぁ、すみません」 商品を店員に渡し返すと、リスベルは戻ってきた。 時折、リスベルが物売りの誘惑に立ち止まってしまうことがあったが――二匹はリックの後を追って歩いた。 嬉しそうなリックの後ろ姿を追って、街をどんどん、さらに奥へと進んだ。 −灰色の石が敷き詰められた通り− 数度、角を曲がり――何だかさっきまでとは違う雰囲気の場所へと出た。 やたらと、おとなな感じな猫が多く彷徨いている。 前を歩いていたリックは、早歩きしていた足を止めた。 目の前には、泡だった波をイメージしたような屋根をした店。 「ココだ」 リックはそう言うと振り返り、 「ひひっ、ココココっ。 ココのアレがうまいんだよ」 と言って、何かを抑えるよう、嬉しそうな口に手をあてた。 "ディーンの酒場" 店の看板には、そう書かれてあった。 「ここって」 リスベルはルークの顔を見た。 「リック、ココ酒場だよ」 そう言って、ルークがリックを見た時には――もう店の中へ入っていくところだった。 「……入ってしまいましたね」 リックの行動に、戸惑う二匹はお互い顔を見合わせる。 ルークはリスベルに言った。 「とりあえず……入る?」 「そう、ですね」 不安ながらも、二匹は酒場へと入ることにした。 −ディーンの酒場− キュウウ……バッタン 「いらっしゃい」 入ってすぐ、おいしそうな"フルーツパンサンド"を持った猫に挨拶された。 ルークとリスベルは、辺りをキョロキョロとした。 店の中は、薄暗い、と言うよりもむしろ明るい。 壁にはいくつも、きっとこの近くの海や森を描いた絵だろうものが、あちこちに飾ってある。 開かれた窓は、店内へ緩やかに、海のにおいがする風を吹き入れている。 奥の方で、リックがテーブルを前にして叫んでいる。 「早く、ココ空いてるぞ! ルーク! リスベル! こっちだこっちっ!」 酒場には、思ったほどの恐い顔はいなくてホッとした。 でもリックのおかげで、そこにいる全員の注目を浴びているのは確かだった。 なるべく気にしないようにして、ルーク達はリックが座っているテーブル席で腰を下ろした。 「何だ、緊張してるのか? 安心しろって、ここはいい感じの酒場なんだからよ」 落ち着かなく座った二匹に、リックはにこやかにそう言った。 座るとすぐ、テーブルの前に女の子がやって来た。 海色のエプロンを着た、黒い瞳の可愛らしい女の子だ。 「いらっしゃい、賑やかなお客さんは、やっぱりリックね」 女の子が笑顔でそう言うと、リックは、 「へへっ、久しぶりだなミリル」 とちょっと照れた様子で言った。 ミリルは、ドキッとするような瞳でルークとリスベルの方を見て、 「今日はお友達も一緒?」 と言った。 リックはチラリとルーク達に目をやり、 「まぁ、そんなとこ」 と首を縦に振ると、 「それより、いつもの三つ! 後は"特製サラダ大盛り"一つね。 あ、ルークとリスベルは何にするんだ?」 と言ってこちらを向いた。 「そうだなぁ……」 ルークはメニュー表を見つめながら、 「オススメ、料理? ……"オススメ料理"って、何ですか?」 と聞いた。 「今日のオススメ料理は、スフレの港から届いた新鮮な魚料理です。 その時々のいいもの、おいしいものを使った料理。 品数も多くて、値段もお手頃ですよっ」 ミリルの言葉を聞いてルークは、 「それでお願いするよ。 ……リスベルも、そうする?」 と注文に悩んでいるリスベルを見やった。 「えっ? あ……は、はいっ」 「んじゃ、以上だな」 そう言ったリックに慌てて、 「あっ、"レッドティー"三つ追加っ!」 とルークは言った。 「旨い茶までおごってくれるのか? なかなか気が利くな、ルーク」 リックにそう言われ、ルークは耳を撫でつけた。 ミリルは注文品を読み上げながら、 「いつもの三つ、特製サラダ大盛り一つ、オススメ料理二つ。 後、飲み物でレッドティー三つですね」 と確認をとった。 「おうおう、それで全部だ」 リックはお絞りで手を拭きながら、相槌を打った。 「少し待っててね」 そう言うと、ミリルは店の奥へと入っていった。 その後すぐミリルはやって来て、レッドティーをテーブルに並べていった。 並べ終わると三匹に「もう少しお待ち下さいね」と言って、また店の奥へと戻っていった。 紅葉色をしたほのかに甘いレッドティーを一口飲み、リックが言った。 「ミリルって可愛いだろ? 特にあの、黒い瞳が、何とも言えねぇくらいに可愛いしさっ。 この店の看板娘なんだぜっ。 俺より年下だってのに、よく働くいい娘(こ)だよ」 リックは何だか、会った時よりも顔に締まりがなくなっていた。 でもそれにはつっこまないでおこう。 リックは話を続ける。 「それにしてもあんた達、旅なんて大変だろ? 近頃、急に物騒になったしさ。 さっきみたいな、わけわからないヤツも出てくるし」 「そうだね、この街で何か、使える武器買っとかなきゃ。 護身用のちっちゃいナイフだけじゃね」 そう言って、ルークは腰に携えてあった小さなナイフを見た。 その様子を見たリックが急に叫んだ。 「今までそのナイフだけで旅してたのかっ!? 危なっかしいやつだなぁ。 俺なんて見ろ見ろ、弓矢以外にも……こうして…いざという時に備えて」 リックは着ていた服から、いくつも、大小様々なナイフやら、トゲトゲしていて足で踏んだら痛そうな物などなどをルーク達に見せた。 「すっごーい!!」 ルークとリスベルは声を揃えて言った。 二匹が感心しているのを、リックは平然を装い、一つ一つ大事そうにそれらを着衣にしまい込みながら、 「よし、俺様がメシの後に"知り合いの武器屋"へ連れて行ってやるよ。 安く売ってくれると思うしな」 と言った。 「わぁ本当っ……行ってもいい?」 ルークがそう聞くと、リスベルは、 「ええ、もちろん」 と微笑んだ。 「任せろルーク、イイ物見つけてやるぜ」 そう言って、リックはにいっと笑った。 ちょうどその時、料理を運んだミリルがやって来た。 「お待たせしましたーっ」 ミリルは出来たての料理を、次々とテーブルの上へ置いていった。 「美味しそうっ」 ルークは思わず口に手を当てる。 食欲をそそる香ばしい薫りに湯気が、鼻をくすぐってくる。 最後の一品を置くと、ミリルはニコリとして言った。 「では、ごゆっくり」 「ありがとな」 そう言ったリックに笑顔を返すと、ミリルはまた、店の奥へと入っていった。 三匹は料理を覗き込んだ。 「うーっ、うまそぉっ! いっただっきまーす!」 リックは威勢良く"何かの姿揚げ"にかぶりついた。 バリバリバリとものすごい音を立てて、リックは美味しそうに頬張る。 「それ何? ……もしかして、ネズミ!?」 ルークは、リックが食べる"姿形の残る揚げ物"を指さした。 「これ? これはな、この店オリジナル味付けの"ねずみの唐揚げ"だ。 俺、すんげー大好きなんだっ。 この店のは特に最高っ! でかさが違うだろ、でかさがっ……普通の二倍はあるぜ。 あんた達も食え食え!」 そう言うと、リックはまた、バリバリバリと音を立てながらねずみの唐揚げにパクついた。 「すごいね……まるで子兎くらいの大きさだよ。 美味しそうっ、俺も食っちゃお」 ルークも大口を開け、ねずみの唐揚げにかぶりついた。 「うまいだろ? 姿形がそのまま残ってるところがいいだろ。 背骨だって、バリバリ食えるしさ。 味付けも最高! 揚げ方も最高! もう、ほんっとに最高だぜっ!」 そう言って、リックは熱く語りつつ、今度は大盛りサラダの器に手を出した。 「これがネズミ…で、こっちが魚っ……骨、肉、シッポ…目玉」 ルークの前でねずみの唐揚げを熱く語っているかと思えば、横では子供のように、ねずみの唐揚げと魚の姿焼きを解体しているリスベルがいた。 ルークは食べようとした"三日月トマト"を落とした。 リックは口からレッドティーを噴きそうになった。 「おっおい、ルーク」 さすがにリックもびっくりして、 「リスベルって、普段、何食ってるんだ……!?」 とチラチラとリスベルの方を見ながら言った。 「……さぁ」 料理をすっかり食べ尽くした三匹は、のんびりとくつろいでいた。 満腹なお腹をさすりながらリックは、 「ふうっ、食った食った」 と幸せそうな顔を見せた。 その様子を見ながらルークは、 「そりゃ食べたでしょ、あれから"鳥の蒸し焼き"に"黄色の野菜のスープ"。 "海老ぞりフライ"、"森羊のグツグツ煮"、"貝の蝶々焼き"まで食べてたんだから」 と言い、笑いながらレッドティーをグビッと飲んだ。 「へへへっ、でもその分、武器の方はばっちり任せてくれいいぜ、ルーク」 リックが付け足すようにそう言ったので、 「そんな無理しなくてもいいよ」 とルークはちょっと困った顔をした。 「無理なんてしねぇーぜ、俺は"できる事"しか言わない主義だからな。 まぁまぁ、心配するな。 俺がいれば、この街のどの店でも"リック引き"が利くからな、安心してくれよ」 リックがそう言うと、リスベルが首を傾げた。 「リック引き? っという事は、リックは"割引券"だったのですか……!?」 なぜか、その場に衝撃的! といった雰囲気が流れた。 「まぁ、そんなところかな」 リスベルの不思議な質問に、リックはなぜかまともにそう答えた。 「……説明するの、面倒だろ?」 と、リックはルークに後でぼそりと言った。 席を立ち、ルークがお金を払う時、横でリックが、 「リック引きで頼む」 と胡散臭く言った。 ほんとに利いていたのかはわからなかったが、3330キャット――ユニコーンが描かれた青銅製の1000キャットコイン三枚と、猫の横顔が描かれた銀色の100キャットコイン三枚。 それに、ネズミや魚、大樹といったそれぞれ違う絵柄――裏側にあらゆる街の名産物が描かれたもの――をした銅の10キャットコインを支払った。 三匹は、ディーンの酒場を出た。 満腹なお腹を満足そうにさするリックの案内で、ルーク達は薄いクリーム色がかった壁の武器屋へと辿り着いた。 −武器屋− キュウウゥゥ 入り口の扉を開けるなり、リックは、 「おっさんおっさあーん!」 と叫んだ。 そう呼ばれた店の主猫らしき猫は、 「リックか、店に入ってきてすぐ"おっさん"はないだろ。 こう見えても俺はまだ若いんだ、せめて"おじさん"と呼べよ」 と言いながらリックに近づいた。 「わかったよ。 ……おじさんもおっさんも、大して変わらねー気がするけどなぁ」 そうボソボソと言いながら、武器が陳列された棚を見つめているリックに、主猫は言った。 「なんだ、また"あいつ"を追ってきたのか?」 何気なく主猫は言ったのだが、言われたリックは顔を蒼白させ、焦ったように猫差し指を口に押し当てた。 「おっおじさん、それはシーッ」 ルークとリスベルは、ちょうどその時店に入った。 さっきまで、いつ入ればいいだろうかと、入り口の扉窓から覗いていたのだ。 どこか様子のおかしいリックを見ながら、 「リック、どうかしたのか?」 とルークは聞いた。 「いっ!?」 リックは二匹に気づく。 「いいや、何でもないさ。 そ、それより……武器見ようぜ。 ココの品物は保ちが良くていいんだぜっ」 どこか慌てた様子でリックはそう言うと、店の奥の方へとルーク達を促した。 「わあぁ、すごいや。 何だろコレ? 大きいフォークみたい」 「ルーク、それは"トライデント"って言うんですよ。 槍のようなものです」 ルーク達が夢中で武器を見ているのを確認すると、リックは小声で、渋い顔をした主猫に言った。 「おじさん、その事は黙ってて、お願いだから」 「すまん、つい口が滑った。 連れがいるのに気づかなかった……すまんリック」 「リック! ルークには何がいいでしょう?」 リスベルの声を聞き、リックは二匹の側へやって来た。 ルークは、柄に緑の珠飾りのついた剣を右手で握りながら、リックの方を向いた。 「何がいいと思う?」 リックは様々な剣が陳列されている棚を見た。 次に、ルークの姿形を観察すると、顎に手を当て言った。 「そうだなぁ、うーん。 ルークには剣は向いてないかもなぁ、残念だけど。 だいたい、まだ子供の旅猫(クォーツ)だし、よほど訓練を積んでいなけりゃ、重くて俊敏に動けなくなっちまうよ」 リスベルは斜め向かいの棚を見ながら、 「弓は今すぐ使える物でないですし。 槍は旅の事を考えると、ルークにはちょっと重荷になってしまいますね」 と額にちょっとシワを寄せた。 二匹の言い分を聞き、ルークはがっかりした。 「何もないのかな、俺に合う物」 そんなルークの背中を叩き、 「まぁまぁ、ちゃんと見つけてやるっつーの。 おじさんっ、この子に合いそうなの、なんか、いい感じのない?」 とリックは主猫の方を向いた。 主猫はしばし、じっとルークを見つめると、ハッと閃いたように言った。 「クローなんての、どうだ?」 「くろぉ?」 ルークがパッとしない顔でそう言うと、主猫は丁寧に説明を始めた。 「クローってなのはなぁ、"手に直接つけるだけ"で使える、結構使いやすい武器だ。 指先に、鋭い鉄やらの硬い金属でできた爪がついてるんだ。 ……但(ただ)しだ、クローはとにかく他の武器より、数十倍、数百倍の"勇気"が必要だ。 なぜだかわかるか? 弓やら槍なんかは遠くから攻撃することができるが、クローってのは、相手にすごく接近して使う物だからだ。 猫には一番の武器だがなぁ、使うヤツは少ない武器さ」 「どうだルーク、そのクローってな武器に、してみるか?」 そう言って、リックは悄(しょ)げていたルークの顔を覗き込んだ。 「……うん、そうする!」 顔を上げ、ルークは頷いた。 その様子を見て、主猫は二三度うんうんと頷くと、突然目を細めてルークを見てきた。 「今なら、いいクローがあるぞ」 「おじさん、それってアレの事じゃ!?」 目をまん丸くさせたリックに、主猫はにーっとした笑いを見せた。 「んふ……リック、来い! 手伝ってくれ」 主猫が手招きすると、リックは意味ありげな笑みを浮かべて、店の奥へと、主猫の一緒に消えていった。 「……何だろう」 ルークとリスベルは、互い、何が出てくるのだろうと半ば不安げに顔を見合わせた。 |
←back
Copyright (C) LOTS. All rights reserved.