20060822
間隔があきすぎですね; お久しぶりのクォーツです。
とりあえずシュウカツは一段落。問題は、卒制で書く物語ですです。。。
12月までに出来上がるかなあ(卒制;;)
quartz
*第十話・リスベルの秘密2*
|
太陽は、ルーク達を頭上から強く照らしていた。 「暑いな」 ロブスターがそう言うほど、気温は高く、強い日差しが暑かった。 普段は暑くても寒くても、思っていることをあまり口には出さない猫なのに。 真っ黒な毛並みを持つロブスターは、ルーク達の何十倍もの暑さを感じているに違いない。 「……」 ルークは放心したかのように、虚(うつ)ろな目で、暑さと戦っていた。 身体中が火照(ほて)り、頭がどうにかなってしまいそうだ。 この状況をどうにかしないと、と思い、後ろに座るリスベルを振り返る。 「この暑さ、日差し、我慢ならないよ」 「私、溶けてしまいますぅ」 リスベルはそう言って、首をダランと垂らしていた。 皆暑さにまいっている。 竜姿のリックが急な加速をしたら、皆いっぺんに、地上へ落ちてしまいそうだ。 「何か日除けでもあれば、違うと思うのですが」 前方に座っていたポルトルの、気のない発言――ルークはハッと閃(ひらめ)いた。 「リスベル"使わなくなった大きな袋"なかった? ……前まで、荷物を運ぶ時に使っていた袋だよ。薄いけど頑丈なやつ」 ルークがそう言うと、リスベルの動きがしばらく止まった。が、 「あ。あれですねっ」 と答えると、いつものようにニコリと微笑んだ。 リスベルは魔法で、右手にパッと、ルークの言っていた袋を出した。 「そうそう、これこれ。何かに使えると思って、取っておいたんだ。これを、こうやって――」 ルークはそう言いながら、腰からナイフを取り出す。 大きな袋を、ルークはナイフで裂いていった。 長方形の形になった。 ルークはその長方形の角四ヵ所に穴をあけ――いつも持っている細くて強いロープを二つに切断し、あけた四ヵ所の穴に通した。 裂いた大きな袋がしぼんでしまわないよう"芯"に何かそわせたかったが、道具がないので、断念した。 「間に合わせだからしょうがないね。まあ、これでよしっと」 ルークは袋の四カ所穴に通したロープを、リックの背中の、小さな翼にくくりつけ始めた。 前方をポルトルに、後方はロブスターにロープを結んでもらった。 「ありがとう。見栄えは悪いけれど、日除けの出来上がり」 ルーク手作りの日除けが完成した。 前方のロープを後方よりも長いものを使用したので、進行方向から風が入り――袋でつくった日よけは、屋根のように、アーチを描いて浮き上がっていた。 四ヵ所、ロープでくくられているので、吹き飛んでしまわない。 太陽の光を遮り、ちゃんと四匹のために影を作ってくれている。 「ちょっと地味だね……」 ルークは苦笑した。 「日除けとしては、ばっちりですよ」 ポルトルはそう言って、くくりつけたロープの具合を確かめている。 リスベルは、 「袋とロープで日除けを作ってしまうなんて。ルークすごいですよぅ。 ……あっ。こうしてみると、もっと素敵かもしれません」 リスベルはそう言うと、右手の猫差し指を"日除け"に向けた。 向けられた猫差し指を中心に、広がるように日除けの色が変わる。 みるみるうちに、鮮やかな、涼しげな色に変わっていく。 気が付くと――さわやかな朝の海辺と、元気が出そうな鮮やかな花の抽象模様が、日除けを彩(いろど)っていた。 「さっきより断然良いよ」 ルークがそう言って喜ぶと、 「そうですか、良かったですぅ」 とリスベルは微笑んで言った。……ちょうどその時、突風が吹いた。 ゴゴゴゴゴ。バタバタバタバタ。 強い風が吹き"日除け"はバタバタと激しく揺れた。 「うわぁすごい風だ」 ルークは、日除けがあまりに激しく揺れるので、破れてしまうか吹き飛ぶのではないかと心配になった。 その時、何か妙な音が後方から聞こえた。 何かが裂けるような音――振り返ると、黒猫が日除けに向かって右手を挙げているのが分かった。 黒猫は、右手の猫差し指の爪で"日除け"に小穴を空ける。 そしてあろうことか、縦に筋を入れ、破り裂いた。 「ロブスターさんっ!?」 ルークはその光景に目を丸くした。 リスベルやポルトルも、何で!? と言わんばかりの顔をする。 黒猫は何事もなかったように、右手を降ろすと座り込んだ。 そうして、ルーク達の様子を見、察したように言った。 「こういうものには、風の流れを拡散させる部分が必要だ。 風の抵抗を抑えるためにな……切れ込みを入れるといい。無意味に破ったわけではない、心配するな」 「う、うん」 ルークは少し驚いたが、改めてロブスターの事を感心させられた。 『おーい、俺には日光対策ないのかよ』 ぶつくさ言うリックの声に、四匹は前方を見る。 ポルトルが、 「あ……リスベルさん、これ、リックの野郎に。 今ドライフィールド近郊で流行(はや)りのグラス。 エクレア港で買ってまだ二回しか使ってないんだけれど……」 と言い、懐(ふところ)からサングラスを取り出した。 リスベルは魔法で、リックのサイズにしてやり、サングラスをかけてやった。 『まぁ、ないよりましだな』 リックの言いぐさに、 「おいらのだぞ、ちょっとは感謝しろよな」 とポルトルは頬を膨らませて言った。 『はいはい、ありがとさん』 口の端を尖(とが)らせて、ポルトルをにやにや見ながら、リックはからかうように首を傾(かし)いだ。 それからもしばらく、空の旅を続けた。 そして、日が傾きかけた頃。 ルークの後ろで、リスベルが言った。 「そろそろ、夜のことを考えないといけませんね」 「うん」 ルークはそう言い、眼下の様子を窺(うかが)った。 相変わらずの、乾いた土地が続いている。 ……どこで降りようとも、キャンプ地としては、あまり変わらないだろう。 ポルトルが言う。 「夜支度(よじたく)は早めにした方がいいですよ。 ドライフィールドでの寝床確保は、結構大変ですから」 「随分と詳しいね、ポルトル」 ルークが少し驚いたようにそう言うと、ポルトルは、 「あ、まぁ……たぶん、そうだと思っただけですよ。ははは」 と、眉を顰(ひそ)め、笑って答えた。 「リック・ゴードン、そろそろ地上へ降りる準備をしろ」 ロブスターの言葉に、 『わかったよ』 リックはお疲れ気味な面持ちで、一つ頷(うなづ)いた。 −キャンプ− 地上に降り立ったルーク達五匹は、辺りを見回し、なるべく平坦な場所を探した。 「あそこ、良さそうだよ」 ルークが場所を見つけてそう言うと、皆そこへと移動した。 「ドライフィールドには、小石が多いですね」 リスベルがそう言い、ポルトルが言う。 「砂岩が風化したりする時に、小石ができる。 ……ここいらの小石は、あんまり硬くはないですよ。 だから風が吹いて、頭に当たっても怪我しません。すぐに砕けてしまいますから」 『でも、寝るのには不適切だな』 リックはそう言うと、スーッと息を吸い、プーッと勢いよく吹き出した。 ……。 小石が吹き飛び、脆(もろ)いものは粉々になった。 辺りから小石が消え、火を囲んで寝るのには適した場所ができた。 「言われる前に行動できるとは、感心だなリック・ゴードン。 竜の姿が、知恵をも与えたもうたか」 ロブスターがそう言って、リックの横を通り過ぎた。 『それでもほめてるつもりか? ほめられた気がしねぇぜ』 リックは黒猫の後ろ姿に向かって、歯をガチガチ鳴らした。 ムスッとしたリックを、苦笑しながら見ていたルークは、 「まぁ……とりあえず、火を熾(おこ)そうか。 みんな、必要な物を集めるのと、夜支度に取りかかろう。 リック、夕食の準備、手伝ってくれるね?」 『あぁ、いいとも。俺は腹が減ってムシャクシャしている』 リックは、黒猫の方に向かって鼻を鳴らすと、ルークにそう言った。 「私は焚き火に使えそうなものでも探してこよう」 ロブスターはそう言うと、ルーク達に背を向けた。向こうへと歩いていく。 「あ、おいらも。おいらも探してきます」 ポルトルはそう言うと、駆け足で出かけていった。 「俺たちも、準備、始めようか」 ルークがそう言うと、 『そうだな、よし、メシだメシ』 リックはそう言って、嬉しそうに首を振った。 それを見てルークは気付く。 「ちょっと待って、リック。……リスベル、リックを元に戻してあげなきゃ。 このままだと、食事を一匹で平らげちゃうよ」 「そうでした、そうですねっ。リック、おとなしくしていて下さいよ」 リスベルはそう言うと、リックに向けて、サッと右手を振り上げた。 「トリ・ワールレ」 リスベルがそう唱えると、暗幕がリックの姿を隠した。 一瞬(ひとまたた)きをした次の瞬間には、リックは元の猫の姿へと、もどっていた。 「ふーっ、もどったもどった。背中にも残っていないな。 よしよし男前リック・ゴードンの姿だ」 リックは自分の身体を見回し、完璧に元の姿へともどった事を確認すると、嬉しそうにした。 そんなリックに少し笑いつつ、ルークは言う。 「リスベル、料理道具と食器を出してくれる? 後、ポルトルと一緒に買ってきてくれた食糧も」 「はいっ」 リスベルはそう返事をすると、次々と、ルークの言ったもの――脚が三つついた鍋。フライパン。折り畳まれた鋳鉄製(ちゅうてつせい)の鍋。鍋の中をかき回したり、スープを取り分けたりするための木のレードル。木の器とスプーンなど――を目の前に出した。 ポンッ、ポンッと小さな空気弾のような音と共に、鍋やお皿が現れる。 「一体、どこから出てくるんだろうな。魔法って、不思議だぜ」 リックはそう言って、リスベルのローブ裾(すそ)をめくろうとした。 それにリスベルは慌てて、 「リック、そんなところにはありませんよ」 と顔を真っ赤にすると、怒ったようにリックの手を払い除けた。 「リック、何をしているんだよ。 この荷物の中から、必要な物を今から取り出すよ。 ロブスターやポルトルがもどってくる前にしておかなきゃ」 ルークが困り顔でそう言うと、 「はいはい、わかっていますって」 とリックは戯(おど)けた顔で返事をした。 「折り畳み式の料理道具を、ロブスターさんが買ってきてくれましたよ」 リスベルはそう言って、折り畳まれた鋳鉄製(ちゅうてつせい)の鍋を手に取る。 「この鍋すごいんだよね」 ルークがそう言うと、リスベルが、 「私このお鍋の使い方、ロブスターさんに教わったんです。見ていて下さいね」 と言って、鍋の取っ手の両端を引っ張る。 平面だった鍋が、カタッという音と共に、立体鍋へと変化する。 「何度見てもやっぱりすごいや。このお鍋を使って、今日はトマトスープ作りだ」 ルークがそう言っている横で、 「今日のメシは何にするんだ。おぉ、良い干し肉があるじゃねぇか」 リックは干し肉を取り出そうとしていた。 ルークは慌てて注意して、干し肉を元の場所へともどす。 「ダメダメ、今日は乾燥豆とトマトスープなんだから」 「リック、ちゃんと言っていたでしょ。 みんなで決めたじゃないですか、今日は乾燥豆とトマトスープって」 頬を膨らませ、指先をリックに突きつけて、リスベルがそう言うと、 「俺は干し肉が食いたいんだ」 とリックは腕を組んで、駄々っ子のように言う。 「……食べたければ食えばいい。だが、お前の干し肉は、それでお終いだ」 そんな声がしたかと思うと、ロブスターが現れた。 ポルトルも一緒だ。 「あ、お帰りなさい」 リスベルがそう言ってニコリとした。 「ちぇ、もう帰ってきたのかよ。ちゃんと、拾うもの拾ってきたんだろうな」 不満そうにリックが指摘すると、 「おいらとロブスターさんはちゃんとやる事はやっているよ。 それよりだリック・ゴードン。 聞いていれば、お前はわがままばかり言っているじゃないか。 お前は食事準備係より、火熾(おこ)し係をすべきだ」 ポルトルは拾ってきた木片や堅い草を、リックに押しつけた。 「お、おいおいおい。何で俺が……わ、わわっ」 リックは落ちそうだった木片を、あごでしっかりと持ち直す。 「リック、ちゃんと火を熾してくださいよ。 火を熾さないと、食事が作れませんからね」 リスベルがそう言って微笑むと、 「ったく、わかったよ」 とリックは渋々ながらに言った。 それから、ルークはリスベルとポルトルと共に、必要な物を出したり入れたりした。 ……こういう事は宿屋でやっておくべきだったが、ルークは、リスベルが物をしまえる魔法を使えるという事を、つい先ほど知ったばかりだったのだ。 食糧、食器、衣類にブランケット――それらを区別し、袋に分けて、リスベルに魔法でしまってもらった。 リックとロブスターは、焚き火作りに勤(いそ)しんでいた。 ロブスターが木片などを焚き火に適するよう並べる間、リックはその横で、懸命に火を熾(おこ)していた。 「はぁ、何で火が移らないんだ」 リックは右手で、小さな四角形の"ファル(火付け紙)"をクシャクシャと擦っていた。 小さな火がファルにつくと、リックは直ぐさま、木片にその火を押し当てた。 ところが薄い煙を一筋残し、火は消える。これでもう四回目だ。 「……まただよ。丁寧にしてやっても、雑にしてやっても、ちっとも火が付きやしないぜ」 嘆(なげ)くリックは、少しも上手くいかないので、半ば飽(あ)きかけていた。 そんなリックをロブスターは横目で見、手は作業をしたまま言った。 「ファルで直接つけようとするからだろう。 雑にしたって火は付かない。 ゆっくり、丁寧に……火を大きくしてから付けるんだ」 「さっきからやってるぜ」 リックが足を投げ出してそう言うと、ロブスターは言う。 「私にはそうは見えなかったが」 「丁寧にやってやっても付かない、だから雑になっちまうんだよ」 不機嫌そうにリックが言い放つと、 「もうお前はいい。私がやる」 とロブスターは立ち上がりながら言って、リックが使いかけて放(ほう)った、まだ少し使えるファルを手に取った。 ロブスターはファルを擦(こす)り、火を付けた。 焚き火のために並べておいた中に、特に燃えやすい雑草の上に、火のついたファルを投げ入れる。 それから流れるように片手を服につっこみ、小さな酒瓶を取り出すと、蓋(ふた)を口で開けた。 はじめの火より少しだけ大きくなった、焚き火の上から、酒を垂らす。 ……酒がこぼれ落ちた一瞬。ものすごい炎を上げたが、次第に焚き火は落ち着き、パチパチと木片を焦(こ)がし始めた。 「……」 ロブスターはそれを見届け終えると、焚き火に背を向けた。 全ての作業には無駄がなく、あっという間に終わった。 リックは腕を組み、フンと鼻を鳴らした。 「初めからやってくれりゃあよかったんだよ」 「お前の手際の悪さに、取っておいた酒を空ける羽目になった。 こっちはもういい。食事の準備くらい、手際よくやってくれ」 ロブスターはそう言うや否や、その場を去ろうとした。 「はいはい、すいませんでした。 にしても、おめぇはトマトジュースしか飲まないと思っていたぜ。酒も飲むんだな」 その言葉にふとロブスターは立ち止まる。 軽くリックへと首を傾いで、 「足もとの木片も焚き火へ入れておいてくれ。そのくらいはできるだろう。 私も酒ぐらい飲む、酔えないがな」 と言うと、立ち去った。 フウと溜め息をつくと、リックは足もとの木片を拾う。 「あいつの言いぐさ、何か腹が立つよな」 ムッとした顔のまま、誰に言うでもなく呟くと、しぶしぶ木片を焚き火に投げ入れるのだった。 それからルーク達は夕食の準備を始めた。 ルークとポルトルが作ったトマトスープを、ロブスターが味見をする。 黒猫から満足そうなうまいのサインをもらうと、慎重に器へと注いで、みんなに配った。 ルークは、リスベルとリックが敷(し)いてくれた敷物の上に座った。 ポルトルとルークに代わり、ロブスターが折りたたみ椅子に座り込み、火の番を始めた。 「乾燥豆、乾燥豆ぇ」 リックが淡々とした口調でそう言いながら、みんなに5粒ずつ乾燥豆を配り歩く。 肉が食べられなかったことに、気落ちしたのか、虚(うつ)ろな目をしていた。 そんなリックを見て、リスベルが「私のお豆さんを、3粒あげますから元気を出してください。お豆さんもおいしいですよ」と言った。 「まあ、豆もよく噛んで食べれば食い応えがあるよな」 そう言ったリックは、少し納得したように頷いた。 それぞれの前に、できたてのトマトスープと乾燥豆の夕食が並んだ。 街にいた時よりも質素だけれど、トマトスープはたっぷり作ってあったので、おかわりができそうだった。 「いただきます」 そう言うと、ルークはトマトスープを口にした。 口から鼻に、トマトの甘酸っぱいにおいが広がる。 空いたお腹に、温かいスープが染みわたる。 「ふはぁ、美味しい」 ひげについたスープの汁を拭(ぬぐ)うと、ルークは乾燥豆を一粒かじった。 「乾燥豆もなかなかいけるな。ま、腹が減っていたら何でもうまいけどよ」 少し離れたところで、リックの言葉が聞こえ、その横で笑うリスベルが目に入った。 ふたりは、焚き火を挟(はさ)んだ向こう側で、並んで座っている。 ロブスターはすでにトマトスープを飲み干し、残った乾燥豆をかじりながら、足もとに酒瓶を置いて、火の番をしている。 ポルトルはというと、ルークの隣に、ちょこんと座って静かにスープを飲んでいた。 ……いつの間に座っていたのだろう。 そう思いつつ、ルークはトマトスープを飲む。 「ねぇ、ルークさん」 突然ポルトル呼ばれ、ルークは振り向く。 「何だい? ポルトル」 ルークがそう言うと、ポルトルは乾燥豆を手の中で転がしながら言った。 「おいら、あんまり皆さんと一緒に旅をしている意味はないのだけれど。 でも一緒に旅をしている仲間ですし、その、ルークさん達のことが知りたいです」 「俺たちのこと?」 ルークがそう聞き返すと、 「はい、何でも構いません。教えてくださいっ」 ポルトルは頷(うなず)いて、ルークの顔を見つめてきた。 「……そうだなぁ。うーん。でも何を話せばいいのかな」 ルークがそう言ってスープを飲み干す姿を見ながら、ポルトルは言う。 「ルークさんは、この旅をする前から旅猫(クォーツ)だったと伺(うかが)っています。 ……リスベルさんやロブスターさん。それにリックの野郎は竜石使いっていう目的で集まっている。 でも、ルークさんは違うでしょ?」 「そうだね。俺は竜石使いじゃないし。強いて言えば、俺はリスベルの道案内ってところだよ」 ルークがそう言うと、ポルトルはきょとんとする。 「道案内?」 「そう。道案内。 俺は、タルト・ルクプの街近くにある古岩の森で、リスベルと出会った。 異世界からやってきて、この世界のことをよく知らない猫を、放っておくなんてできなかった。 それに、リスベルが話してくれたことは、リスベルだけの問題じゃないって思ったんだ」 「あの……ルークさんは、その時リスベルさんと初めて会ったんですよね?」 ポルトルが急に、声音を落とす。 「そうだけど」 そう言うと、ポルトルは少し驚いたような表情をした。 「ルークさんって、猫が好(い)いんですね。 出会ってすぐの猫を信じちゃう。 ルークさんは竜石使いでもないのに、無償で旅まで同行しちゃう。 普通の旅猫よりも危険で、死んじゃってもおかしくない出来事に遭遇してしまうのに。 おいらだったら、途中できっとしっぽ巻いて逃げちゃいますよ。 今のおいらがそうですもん……おいら、いつまでタダ働きの、荷物運びなのだろう」 ポルトルの言葉を聞いて、ルークは「ほんとだ」と言って笑った。 「俺だって、きっとそうだったと思うよ。 でも、なぜかな。……出会ったのが、リスベルだったからかな」 ルークは手元で乾燥豆をもてあそびながら、自分の旅の経緯を思い返す。 過去の出来事を思い返していると、なぜだか、おかしくなった。 「……ルークさんって、おいらと一緒で、竜石が欲しいのだと思ってた」 急に、ポルトルが呟くようにそう言った。 「えっ?」 「おいらは、今でも機会あらば、リック・ゴードンから竜石を頂いちゃおうと思っていますよ。 だって、竜石を持てば、強い力が持てる。 ルークさんもきっと、そのうち、強い力が欲しくなりますよ」 ポルトルはこちらを向くと、じっと青い目で見つめてきた。 「おいらの言葉当たると思います」 有無言わさぬポルトルの目に、ルークは少し怖くなった。 そんなルークに気付いてはいないのか、はたまた気付いているが気にしてはいないのか、ポルトルは話を続ける。 「旅をすれば、修練を積めば、誰だって強くなれる。 でも"限界"や"才能"みたいなものって、あると思うんだ。 ……おいらには、歳の離れた兄貴がいるからわかります。 おいらは彼より上には立てない。そういう星の下に生まれたから。 だから、誰彼問わず力を与えてくれる竜石には、魅力を感じる」 話をするポルトルは、ルークを見つめているようで、違う猫を見ているようだった。 「ポルトル……」 呼びかけると、ふっと一瞬、青い目の瞳孔が縮小したように感じた。 ポルトルが驚いたような顔つきで、 「あれ、おいら、つい熱が入っちゃった。何言ってんだルークさんの前で」 と片耳の後ろを、困ったような表情をして掻(か)いた。 いつもの、あどけないポルトルにもどったようだ。 「あ、今のは冗談です……でも、ちょっと本当かも。 いつか、おいらたちも竜石、持てるようになればいいですね」 ポルトルはそう言って、ルークにニコリと微笑んだ。 先に食事を終えたポルトルは、食器を片づけるため、立ち上がった。 「お先に失礼しますね」 そう言って向こうへ歩いていくポルトルの背を、しばらく目で追った。 ルークは頭がぼんやりとしていた。 何気ない会話だったのに、ポルトルの言葉が、頭に残っていた。 強くなりたいと思っているのは事実だ。 だけれど、その欲望のために、竜石を欲するほどではない。 「強くなりたい、か」 ポルトルは、自分より優れた兄のようになりたいのだろう。 自分はどうなのだろう――と考えると、すぐに赤い旅服を着た、アモンの姿が浮かんだ。 無意識に、旅服に手を突っ込む。 指先が、昔アモンにもらった、赤い石の入った袋に触れた。 「そう言えば俺、アモンみたいになるための方法なんて、考えたことなかったな」 ――ずっと、ただアモンを探すことしか考えていなかった。 憧れに出会った時、自分はどうするのだろう。その時自分は、どうなっているのだろう。 明日もし、アモンが見つかったら、そこで旅は終わってしまう……? 『だから、見つからない』 耳元をかすめていった風が、囁いた気がした。 「えっ」 驚いたような声を出すと、火の番をしていたロブスターの耳が動いた。 ロブスターへ独り言が聞こえているように感じ、ふと恥ずかしくなって耳を伏せる。 「おいルーク、まだ食ってるのか? 早く食べちまえよ、お前が最後だぜ」 リックの声に、ルークは我に返る。 残りの食事を口に押しこむと、ルークは立ち上がり、食器を片づけることにした。 食後、ルークは、ポルトルの発言に始まり、アモンを探す旅、竜石使いを見つけて黒い竜を倒す旅路のこと――果ては、自分自身の猫生についてまで、考え込んでしまっていた。 自分のまわりには一緒に旅する仲間たちがいるというのに、誰もいない部屋に、独りぼっちでいる孤独感のようなものを感じる。 今まで旅をしていて……いや、旅をする前から、時々そんな気配が過ぎっていることには、気付いていた。 けれど、気に留めるほどのことではないと思い流していたし、一々気にする必要もないと、ルーク自身考えていた。 広大なドライフィールドでは、自分なんてちっぽけだ。 ちっぽけなルーク・チャンスが考えている悩みなんて、もっともっと小さなもの。 ……そう考えると同時。 この世から自分が消えてしまっても、その存在なんて、些細なことなのだろうなと思った。何だか寂しい。 ――でも、アモンは違う。 アモンは、このドライフィールドに匹敵するくらいの猫だ。 いなくなれば、なくなれば、世界中の猫が、それが真実であるのかどうかの是非を気にする。 ルークはふと、ポルトルの話を思い出した。 「ポルトルの言ったこと、わかる気がするな」 手の届かない憧れに、自分もそうなってみたいと思う気持ち。 憧れるものになる方法があるのならば、それに賭けてみようと思うのは、当然だと思う。 ……一生をかける作業かも知れないけれど、叶わないかもしれないけれど。 やる前から諦(あきら)めてしまうのは臆病すぎる。 憧れを追い求めている時間は、決して無駄ではないと思う。 ただ、時折、他者には分かってもらえない、孤独を引きずることになるけれど。 ルークは心の中で呟いた。 「俺はアモン・ティル・ハーツになりたくて、旅をしている。 だから辛いことも苦しい経験も、乗り越えられるんだ。 ……そのために、リスベルたちと旅を続けているのかも知れない。 でも俺は、アモンみたいに、誰かに必要とされている猫なのかな」 日が沈んだ、夜香を漂わせたドライフィールドの冷たい風が、胸の内にたまっていくような気がした。 「リスベルと旅を始めたのは、リスベルがひとりだったから。 道案内がいると思ったんだ。 でも今は、俺が道案内としてリスベルの側にいる意味はあるのだろうか。 ……俺がいなくとも、ロブスターという素晴らしい猫がいる。リックだっている。 ふたりとも竜石使いだし、強いし」 ルークには蒼爪があるが、竜石使いの彼らよりも劣(おと)る。 「俺の勝手な思いで、リスベルたちと一緒にいるのだとしたら。 みんなの旅路の、足を引っ張っているのかも知れない」 頭に、急にそんな言葉が過ぎった。 どうして今まで思い浮かばなかったのだろう。 ルークは気持ちが落ち込んだ。 「おーい、どうしたリスベル」 ぽつんと独り佇(たたず)むルークを、リスベルは静かに見つめていた。 トマトスープの3皿目を平らげたリックは、リスベルから――ルークへと視線を移した。 「何か、ルークのやつ元気ないなぁ。 やっぱりトマトスープと乾燥豆だけじゃ、物足りなかったんだろうなぁ」 リックはそう言って、最後の一すくいのスープを、惜しむようにして飲み干した。 その横でリスベルは小さく呟く。 「……ルーク」 「おいおいリスベル、お前も物足りなかったのか?」 リックは何やら深刻そうな顔のリスベルを、首を傾げて見た。 やるべき事は全て終え、後は眠りにつくだけとなった。 辺りはいつの間にか真っ暗で、焚き火の火と、夜空の光だけがドライフィールドを仄(ほの)かに明るくしている。 盛大ないびきをかいて眠り始めたリックが、寒そうに身体をよじる。 ルークはリックにかけられているブランケットをかけ直してやり、さらにその上からもう一枚ブランケットをかけてやった。 「そろそろ私たちも寝ませんと」 リスベルはそう言うと、スウィートティを全て飲み干し、カップを脇に置くと、ブランケットをかぶった。 そんなリスベルを見て、ポルトルもブランケットに入り始めた。 「おいらも寝ます。みなさんお休みなさい」 ポルトルはそう言うと、すぐさま眠りこけた。 「ルーク、あなたも早く寝てくださいね」 リスベルはそう言うと、しばらくルークを見つめていた。 「どうかした? リスベル」 「……ルーク、今日は疲れましたか」 心配げに揺れる緑色の目が、こちらをうかがっている。 ルークは首を横に振った。 「俺は元気だよ、まだ一日目じゃないか。 リスベルこそ、旅慣れしてないから疲れただろう。早く寝た方がいい。おやすみ」 ルークがそう答えると、リスベルは視線を落とした。 そして再びこちらを見上げると微笑んで「おやすみさない」と言い、リスベルは横になって眠った。 ルークは火の番をするロブスターの横で、温かいスウィートティをすすった。 3匹は寝静まり、ルークはロブスターとふたり起きている。 ――今夜はなぜか目が冴(さ)えていて、眠れそうにない。 膝(ひざ)を抱えて、じっと焚き火を見入っていると、ロブスターが言った。 「ブランケットをしっかりと身体に巻きつけておいた方がいい。深夜はもっと冷え込む」 「うん」 ルークは返事をすると、旅服をきっちりと整え、背中に覆(おお)わせていたブランケットを身体に締(し)めつけた。 パチパチパチ。静かなせいで、焚き火の燃える音がよく耳に聞こえた。 ロブスターは相変わらず、黙(もく)したまま火の番をしている。 ……夕食後からロブスターの行動で変わった事と言えば、酒瓶ではなく、替わりに分厚い書物を手にしている事だろうか。 「何の本を読んでいるの?」 気になって、ルークは尋ねてみた。 「歴史の本さ」 ロブスターは本を見つめたまま、そう答える。 「歴史の本かぁ。ロブスターはそういうの好きなの?」 そう聞くと、ロブスターはページをめくりながら言った。 「まぁな。こういう当てにならない本でも、役に立つこともある」 「……当てにならない、本?」 ルークはかすかにそう呟(つぶや)いただけだったが、ロブスターの耳にはちゃんと聞こえていたらしい。 ロブスターは本を軽く閉じ、ルークの方に振り向きながら言った。 「この本もそうだが、史実の実際なぞ本当のところはどうかわからん。 過去は必ずしも、正しく後世に伝わるとは限らない。 また、細密に、あった出来事すべてを書きつづることは不可能だ。 500年前――黒い竜がこの世界から消えたと、書物にはある」 「リスベルもそう言っていたよ。それは本当じゃないのかな」 口を挟(はさ)むと、ロブスターは首を横に振って、言った。 「私は、偽(いつわ)りではないかと、思うことがある」 「えっ」 ルークは目を瞬(しばたた)き、首を傾げた。 ロブスターは、焚き火に木をくべながら、話を続ける。 「ルーク、お前は何でも純粋に信じる……。 この私が持っている書物にも、黒い竜は500年前に消えたとある。 だが、これを書いた者が、その黒い竜に騙(だま)されていたかもしれん。 黒い竜はとてつもない力を持っていたのだ。 この世界から消える時に、何か、世界全体に魔法でもかけたかもしれんぞ」 「……でも、全く信用できないわけでもないよね」 ルークが小さくそう言うと、黒猫は夜風に項垂(うなだ)れて、低い声で答えた。 「あぁ。何事も、全く信用できないわけではない。 私も、お前に信じる事をするなと言うわけではない。 ただ時には、目の前にあるものを疑うことも必要だ。 それが歴史家、探求者の考え方」 「……ロブスターって、歴史家?」 ふと思ったことを口にすると、黒猫は驚いたように青い右目を見開いた。 そして一瞬、口元に微笑みのようなものを浮かべて、目を閉じた。 「私は、己の生を持てあましている」 黒猫は、焚き火をかきまわし、 「趣味は世界の探求だ。尽きることのない永遠の疑問。私の生と似ている」 と呟くと、ルークの方をちらりと見た。 「私にとっての旅は、その延長にある。 ルーク、お前にとっての旅の意味とは何だ」 突然投げかけられた疑問に、ルークは驚いていまった。 「俺にとって、旅は………俺の猫生」 そう答えると、 「私の旅も、ルークの旅も、永遠だな」 火に照らされた黒猫の横顔が、笑った気がした。ルークも、我知らず微笑んでいた。 |
***クォーツの感想を、是非こちらから***
Copyright (C) LOTS. All rights reserved.