誤字脱字たくさんあったので修正しました。
お話自体は変わってません、読みにくいところもちょっと手を入れたくらいです(汗)
最終訂正2005.03.10


quartz

*第一話・はじまり2*






 ……。小指ほどの大きさ。
 フワフワした綿のような毛に体をくるませ動く毛虫――"綿毛虫"だ。
 それはくるませていた体を広げ、その少し固い毛先で、ルークの鼻の頭をくすぐったく刺激した。
「ううっ」
 毛の堅いブラシに似た感触が、ルークの鼻を刺激する。
 両目で毛虫を見つめると、毛虫が身体をもたげ、目が合った。
 しばらく二匹は見つめ合う。
 けれどちくちくと移動する感触に、ルークは我慢の限界だった。
「ふわぁくしゅーんっ!」

 毛虫はどこかへ吹き飛んだ。
「んんっ……あぁっ」
 ルークはくしゅくしゅする鼻を擦った。
「何ですか?」
「綿毛虫だよ。
きっと風のせいで木から振り落とされたんだ」
 言いながら、また落ちてこないだろうか……と、ルークは上を見上げた。

「綿毛虫って言うんですか……私、初めてお目に掛かりました」
 ルークはリスベルの方へ振り向いた。
 リスベルは「はじめまして」と、毛虫に会釈(えしゃく)をしていた。
「綿毛虫、初めて見たの?
どこにでもいるのに、リスベルのいたところにはいないんだ」
 ルークがそう言っている間、リスベルは何やらローブから小さな小瓶を取り出し、その中へ嬉しそうに――入れようとしていた。

「……リスベル」
 綿毛虫をしまい込むローブの猫を、ルークは不思議そうに見つめた。

 見届け終えると、ルークは言った。
「この森は、古岩(ふるいわ)の森って言うんだ。
いろんなところに、今座ってるような岩があちこちにあるから、そう呼ばれてる。
ほら見て、あの大木の向こうにも。
その奥にもてっぺんが白くなってる岩が見えるでしょ?」
 リスベルも向こうの方を見つめる。
「あっ、本当です。
こっちの方向にも、あ、あちらの方向にも岩がありますよ」

「古岩の森を抜けたら、すぐ街があるんだ。
"タルト・ルクプ"って言う、小さな街……じゃ、行くか」
「はいっ」
 ルークとリスベルは、座っていた古びた岩を降り、
「……リスベル大丈夫?」
「ええ、ちょっと滑っただけです」
 街へ向けて歩きだした。



 ――ルーク達の様子を見ていたものがいた。
 二匹が気づかずに歩きだすのを見て、それは黒々とした毛並みを木々の間から見せた。
「ヴゥ……」
 恐ろしく鋭い目を大きく見開き、それはルーク達と同じ方向へと消えていった――



「この世界には、竜石と呼ばれる七つの石があります。
黒い竜を倒すには、その石の力が必要です」
 リスベルが話しているのを、ルークは旅服をゴソゴソしながら聞いていた。
「その竜石ってものも、見つけなきゃなんないんだね」

 チチチと鳴きながら、淡い色の小鳥がルーク達の周りを飛び回った。
 ルークは服から、一枚ビスケットを取り出し――端っこを細かく砕いて、右の手のひらに載せた。
 リスベルはその様子を見つめながら話続けた。
「竜石には、その石を持った者の能力を上げる力があります。
きっと、誰かの手に渡っているに違いありません」
 チチチという鳴き声が集まる。
 どこからともなく、他の小鳥たちも寄ってきて、ルークの手のひらにあるビスケットを突っつき始めた。
 ルークはポケットからもう二枚取り出し、一枚をリスベルに向けた。
「食べる?」
「……あ、ありがとう」
 リスベルは恐る恐る受け取り、ゆっくり、頬張った。
「美味しいですっ」
 リスベルはニコリとした。
 ルークは頬張りながら、「でしょっ」と言って微笑んだ。


「竜石が誰かの手に渡ってるんだったら……それは、どうやって見つければいいんだろう」
 ルークは腕を組んだ。
 色々あれこれ考えていると、隣のリスベルが急にローブの袖を捲りだす。
 そして右の手のひらを、ルークの顔の前に突き出して見せた。
「な、何?」
  リスベルの右の手のひらには、淡い青色をした、流水のような輝きをみせる石に似たものが――斜めに、大きく裂かれた傷のようにあった。
 よく見ると、石の輝きをみせる傷の奥で、何かが動いている。
「竜?」
 思わずそう声に出すと、リスベルはこっくりと頷いた。

 竜は二つのギョロリとした目で、ルークの方をじーっと見ていた。
 こちらを見つめていたかと思うと、竜は突如、ルークに向かって大きく口を開けた。
 鋭い歯の並んだ大口が、食いついてくるように迫ってくる。

「わわ!?」
 竜が飛び出してくるのではないかとルークは身を引いた。
「大丈夫ですよ、力を使わない時は」
 リスベルはクスッと笑うと、袖を元に戻し、何事もなかったかのように歩きだした。
 ……。あまりのことに、ルークは呆気にとられていた。
 三瞬きほど、ルークは立ち竦(すく)む。
 漸(ようや)く、リスベルの後をトボトボ歩き出すと、
「リスベルは竜石使いだったんだ」
 と小さく言った。
 そんな声が聞こえたのか、リスベルは後ろを振り返る。
「ルーク?」
「……あ、あ、ごめんリスベル」
 我に返ったルークは、慌ててリスベルの側へ駆けた。


 追いついてきたルークを確認すると、リスベルは言った。
「次は、私がルークに質問しても良いですか?」
「うん、いいよ」
 ルークはリスベルの方を見やる。
「何て聞いたらいいのでしょうか」
 リスベルは少し額しわを寄せ、言って続ける。
「ルークはどういった風に旅をしていたのですか?
あ、どうしてこの森に通りかかったのかと」
「……アモンの形跡を追って、旅してたんだ。
尋ねて歩いたり、新聞や雑誌を見たり……あ、アモンって有名猫だからね。
行方が気になる猫が多いんだと思う、新聞なんかの投稿記事に載ってたりするんだから」
 楽しげにルークは話を続ける。
「リスベルと会った時は一匹でいたけど、同じ方向へ行く旅猫とこの道を通ってたこともあるんだよ。
旅猫(クォーツ)っていうのは、いろんな猫たちと出会えて楽しい。
……リスベルにも出会えたしね」
 その言葉に少しだけ、リスベルは笑んだ。





 しばらく歩くうち、二匹は街を見下ろせる場所へと着いた。
「もう少しだ、後少し歩いて森を抜ければ」
 ルークがちょうどそう言った時だった。
 さっきまでルークの肩や周りを飛んでいた小鳥たちが、急にチチチと高く鳴き叫びだす。
 顔や旅服を突っついてきたのを最後に、小鳥たちはどこかへと飛び去っていってしまった。
「ん……?」

 突然、ガサガサと辺りから気味の悪い物音がした。
 かと思うと、茂みからルークに向かって、"何か"が飛び出してきた。

「わっ!?」
 ルークは慌てて"何か"から身を避け助かった。
 が、再びその"何か"――真っ黒な毛むくじゃらの魔物ビースト――は、ルークに襲いかかる。
 リスベルが慌てて右手を出そうとした。
 その時。
 ビーストがルークに飛びかかるよりも早く、ルークの後ろ――リスベルの顔のすぐ横を通り過ぎ――鋭い何かが飛んできた。

 シューンと風を掠めるように飛んできたそれは、矢のようだった。
 一瞬、矢は緑色輝くと、見事ビーストの胸に深く突き刺さった。
 ビーストは断末魔の叫び声を上げると、突如強く吹き荒れた風と共に、粉微塵になって消えてしまった。


 ルークはナイフ、リスベルは右手を構えた。
 何もかもが突然のことだったが、更なる危機を察し、意識が矢の飛んできた方へ向く。
 二匹の耳に、再び、ガサッガサッという物音が近づいてきた。
「……あんた達、大丈夫かっ?」
 木の陰から、声がし――弓を持った猫が現れた。
 茶と白の混ざり合った毛並み。
 顔は左の目から耳にかけてだけ茶色く、後は白っぽい毛並みをしている猫――ルークよりも少し年は上のようだ。
 左耳にはピアスをしていて、空みたいに澄んだ青色の目が、ルークとリスベルを見ていた。

 ルーク達が警戒している様子を見て、その猫は毛並みをクシャクシャとさせながら、
「あ、俺は通りすがりの猫だ。
あんた達に危害を加えるつもりはないぜ。
ずっとさっきの野郎があんた達の後ろをつけてて……」
 と言い、続けて、
「物騒なもの、俺に向けないでくれるか」
 とちょっと迷惑そうな顔をした。
 それを聞き慌てて、
「そ、そうだったんだ……あ、ごめん」
 ルークはナイフをしまうと、後ろを振り返り、
「リスベル、右手をしまって」
 と今にもその猫に向かって何かしそうなリスベルに言った。

 ルークは正面に向き直ると、
「せっかく助けてもらったのに勘違いしちゃった。
礼を言うよ、助けてくれてどうもありがとう」
 と頭を下げた。
「へへっ、礼はいいぜ」
 弓使いは照れくさそうに片手を振り、その手の親指を自分に向けると、
「俺はリック、リック・ゴードン……弓の名手だ」
 とニコリと笑った。
 そんなリックを見、ちょっと安心したルーク達も言った。
「俺は、ルーク・チャンス」
「私はリスベルと申します」
 二匹はそれぞれ、リックと握手を交わした。

 ルークは、リックを窺(うかが)いながら、
「それにしても……リックの矢、すごいね。
びっくりした、今まであんなすごいの見た事なかったから」
 と目をパチクリさせ言った。
「へっ? そうか? ……まぁなっ。
俺はそこらにいる弓使いとは、一味違うぜっ」
 リックは自慢げにそう言うと、半透明のヒゲを手の甲ですくうように撫でつけた。
 毛が短いので、髪を掻き揚げる仕草の変わりにやったらしい。
 ルークがそれにクスクス笑うと、リックもへへっと笑った。


 ルークは、仕草やら動作を見ても、猫の良さそうなリックにちょっと好感を持った。
 悪い猫でもなさそう……。
 知らないうちに、ルークは警戒心を解いていた。


「ルークとリスベルは、どこかへ行く途中だったか?」
 リック聞かれ、ルークは向こうに見える街の方を指さした。
「今から、あの街に行こうとしてたんだ」
 
「タルトの街へか。
奇遇だな、俺もあの街に用があってさ。
……にしても、見たところ、あんた達は旅猫(クォーツ)だな?」
 そう言って、リックはルークの着ている旅服を見つめ――次に、リスベルのあまり見かけないようなローブを興味深げにしげしげと眺め始めた。
 リスベルはまだ少し、リックを警戒しているようだ。
「珍しいローブだな」
 リスベルはそう言うリックをじっと見つめ――そのうちリックと目が合って、慌ててローブに顔を隠した。
「ん?」

 ルークはふたりの様子を見ながら、
「うん、まぁね……リックは?」
 と聞いた。
 リックは、コソコソとローブの奥底から顔を覗かせるリスベルに微笑んで、
「俺? 俺か? 俺はだな、ここらで腕を上げるのにうろうろと。
あ、そうそう、今日はあの街でちょっとした仕事の依頼があってさ」
 と言った。
「そっかぁ」
 ルークがそう言って、リックの方へ向き直ろうかとしていた時だった。


 きゅるるるるる……ググウウゥ


 リックのお腹が派手に鳴った。
「……お腹、減ってるの?」
 ルークが小さくそう聞くと、リックは耳をペタンと頭にくっつけた。
 頬を赤くし、照れくさそうに頷く。
 さっきとは様子が打って変わって、リックが急に可愛い子猫に見えてきた。

 ルークは何か機転を効かせないと、と考え、ハッと思いついて言う。
「あっ、遅いけど、よかったらお昼ごちそうするよ」


 しばし間があって。
 ゆっくりとリックが顔を上げる。
 リックは無言で、にーっと笑うと――ルークの言葉に、嬉しそうについてきた。






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・・・第一話についてのひっそりコメント★
(この話の登場猫物紹介も兼ねてます)


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